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看板

「雪とん」は歌舞伎の世話物で三世河竹新七作、本名題「江戸育御祭佐七(えどそだちおまつりさしち)」という話の一部を落語にしたものである。

演ずるは橘家文吾。昨年11月に二つ目になったばかりの若手噺家である。前座名を橘家かな文といい、橘家文蔵の弟子である。筆者は2014年10月、文蔵が文左衛門と名乗っていた頃の独演会で、前座に出たかな文を聴いている。その時の印象は「可もなし、不可もなし」であった。要するにあまり印象に残らなかったのである。

その時から5年経過した今日、「雪とん」を聴いて、橘家文吾はうまい噺家になった、と思った。5年の年月がこれほど芸に変化をもたらすものか、という実例を見た気がした。1991年生まれと出ているのでまだ20代後半だろう。色気があり、フラがあり、なにより噺がおもしろかった。「男子三日会わざれば刮目してこれを見よ」というが、以前聴いた若手が見違えるほど上手くなっているのを見るのはファン冥利に尽きる。

立川笑二は以前から上手かった。2016年12月、武蔵野公会堂でやった立川談笑一門会で、笑二は「鼠穴」を語った。筆者はその迫力に、この若手に落語の神様が降りてきたのではないかと思った。この時、笑二は26才であった。

今日の笑二は迫力を棚上げして軽いノリで「宿屋の富」を仕上げた。ところどころ入れる笑二独特のクスグリは効果的に効いていた。古典落語に命をかける笑二が少し力を抜いて観客を楽しませる芸をレパートリーに入れつつある。楽しみである。

ちなみに笑二は今年度の「渋谷らくご」大賞をとっていた。

3番目は神田こなぎの「お竹如來」。こなぎは神田すみれ門下、二つ目になって3年目の講談師である。

「お竹如來」は地道にコツコツ働いていれば知らず知らずみんなが認めてくれる、という教訓的な話である。教訓的な話ではあるがこなぎが読むと、素直にその通りだと思える。不思議なキャラの講談師だ。

トリは立川吉笑の「歩馬灯」。走馬灯ではなく歩馬灯としたところがミソ。死ぬ直前に今までの人生が走馬灯のように頭の中を通り過ぎる、ところを歩くようにゆっくり通り過ぎたらどうなるか。という実験落語である。

つまらない人生を送ってきた自分の過去など思い出したくない。あれも後悔、これも後悔、という人生を思い出したくない。そんなのはさっさと通り過ぎて欲しい。という我々凡人の思いを、心の底から絞りだすように吉笑は語った。


 
(演目)
   ・雪とん----- 橘家文吾
   ・宿屋の富----- 立川笑二
   ・お竹如來----- 神田こなぎ
   ・歩馬灯----- 立川吉笑
                
(時・場所)
 ・2019年12月28日(土)
 ・13:30〜15:00
 ・神田 連雀亭


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