立川志らく独演会   |
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「三人旅」のらく兵はいかにも落語家らしい表情、話っぷりも落語家という感じで手馴れていた。残念なことがひとつ、滑舌が悪く、何を言っているのか全然わからなかったことだ。話し方の基本的な訓練をしていないのではないか。小三治などはどんな小声でしゃべっても後ろのほうの席でもはっきり聞こえたものだが。 志らくの「寝床」は笑えた。 もともとおかしい噺なのだが滑稽噺の得意な志らくにかかると場内大爆笑になる。映画ファンの志らくだけに途中「シャイニング」になったり「エイリアン」になったりする。確かにこの噺はホラーともいえる。 演台を持った旦那が土蔵の周りを追いかけまわすなどは正気ではない。正気から狂気へ切り替わるところが志らくの真骨頂であり、意識的にそれをやっていると思う。 「寝床」では観客が全然集まらないでふて寝している旦那のところへ番頭がやってきてもう一度やってくれと説得するところだ。ここでよしやろうというまでの間に旦那の頭が少しずつ狂い出す。その変化を志らくは観客に納得させるようにスローモーションで演じてみせる。 トリは「真景累ケ淵」。 怖いので有名な噺だが、それにしても怖かった。寿司屋の二階でお久が豊志賀に変わるシーンでは志らくの顔がCGで変化するのではないかという恐怖感に襲われ、会場の外へ逃げだしたくなったほどだ。そのシーンでは周りの客も不安そうにあたりを見回していた。 ここではお久が狂うのではなく、新吉が狂うのだ。お久の顔が変化していくところは実は新吉の頭の中がこの辺から狂い始めているのだ。志らくはお久の顔が豊志賀に変わっていく様をスローモーションのようにゆっくりとした演技で見せる。 いったん狂い出した歯車は元に戻らない。温厚な人柄で評判の伊勢屋の旦那は演台を両手に持ちながら逃げる番頭を追いかけまわし、律義者の新吉は次々に殺人を犯していく。 昨年の10月、志らく一門会でやった「大工調べ」では手下の大工を弁護しながらだんだん狂っていく棟梁を分析するかのように冷静に演じて見せた。 志らくは滑稽噺とか怪談噺とかいうジャンル分けは考えていない。人間の狂気とは何か、ということを常に意識して落語をやっているのではないかと思う。 |
(演目)
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(時・場所)
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