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三三・萬橘・宮治 三人会

春風亭かけ橋は、もともと落語協会の二ツ目で柳家小かじを名乗っていた。2018年、師匠の柳家三三に破門された。同年、春風亭柳橋に弟子入りした。ふたたび前座からである。筆者は二ツ目時代の小かじを数回聴いている。

今日は破門された師匠の三三、法政大学の先輩・萬橘と共演である。気持ちは複雑だろうが、この世界で生きていくためには「なんでもあり」の覚悟がなければ続かないだろう。

かけ橋の「道具屋」は法政大学落研出身、落語協会の元二つ目だけあって、手慣れた話ぶりだ。表情が乏しいのが難。大家さんと八五郎の表情や口振りがほぼ同じというのはいただけない。

「真田小僧」は前座噺のような軽い噺。演りようによっては、今回の萬橘のように、父親と息子の息の合った男同士のテンポの良い会話になる。まくらで小学校2年生の娘と父親=萬橘のテンポの良い会話を振ったのは、この噺のためのプロローグであった。萬橘はガラっ八に見せかけているが、本当は繊細な神経の持ち主である。

帰りがけに駅へ行く途中にある書麓(しょろく)高田書店という古本屋に寄った。初めて入ったが中は意外に広く、興味深い本がいろいろあった。今までこの店の前を何回も通ったのだが、一度も入ることはなかった。入ってみようと思ったのは、萬橘がまくらで、会場に来る途中この店に入って本を買った、と言ったからだ。筆者の後に次から次に客が入って、店がいっぱいになってしまったのは、まくらを聴いた客が興味を持ったからだろう。

仲入り後は、話題の人・桂宮治の「蜘蛛籠(くもかご)」だ。

笑点の新しいメンバーが発表されたのは4日前の1月1日だった。落語家にとってはこの番組のレギュラーになれたことはドル箱をつかんだようなものだ。何しろ通常の真打ちのギャラが一気に4倍になるんだから。

そのせいかどうか、今日の宮治の表情は固い。しきりに笑顔を作るのだが、二つ目だった時の自然な笑顔が作れない。まくらもぎこちない。恐る恐るやっている感じだ。破天荒な宮治はどこへ行ってしまったのか。

蜘蛛籠(くもかご)」は籠の底が抜けて客が二人入っているのがバレてしまい、籠かき二人と客二人、合計8本の足で歩くから蜘蛛籠というのだが、テンポが途切れる。なだれ込むように進めないと面白さが出ない噺なのに、なかなか勢いがつかない。「なんでもあり」の宮治は「こだわり」の宮治になってしまったのか。

トリは三三の「五貫裁き」。大岡政談である。たっぷり40分の大ネタである。こちらはテンポが良い。悪い質屋の徳力屋を大家さんと大岡越前守の知恵で懲らしめる。一気に懲らしめるのではなく、徐々にやるから聴いている方は「もっとやれ、もっとやれ」という気分になる。

三三は丹念に話を綴っていく。ただ、フラというか、愛嬌というか、可愛げというか、そういうものが欠けているから話が堅い。師匠の小三治は登場人物たちになんとも言えない可愛げがあったから、身を入れて感情移入することができた。

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それにしても、萬橘のまくらで、娘の放った「ヘタッ」の一言でおとうさん=萬橘が「シュン」としてしまうところは可笑しかった。


 
(演目)
   ・道具屋----- 春風亭かけ橋
   ・真田小僧----- 三遊亭萬橘
   ・仲入り 
   ・蜘蛛籠(くもかご)----- 桂宮治
   ・五貫裁き----- 柳家三三

                
(時・場所)
 ・2022年1月5日(水)
 ・13:00〜15:10
 ・西新井文化ホール


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