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ルー・テーズというレスラーがいた。936連勝し、世界最強といわれた。
決め技は代名詞ともなったバックドロップをはじめ、エアプレン・スピン、フライング・ボディシザーズ・ドロップと見栄えのする技が多かった。
最近ユーチューブでテーズの試合を見て感心したことがある。 ロープ際での行動である。きれいに別れるときもあるがそうでないときもある。
わかれぎわすばやく肘で相手の腹を突いたりする。顔に肘を当てそれをもう片方の手でパチンと叩く。平手で顔を叩く。体重を相手にかけてのしかかるようにする。相手は油断ができない。それが決定的なダメージを与えるわけではない。ただ気勢がそがれる。
ロープ際で別れた後、中央で「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」の体勢で組み合ったとき明らかにテーズが優勢になっている。
これがプロのやり方だ、と思った。少しずつ自分の有利になるように持って行き、最終的には余裕を持ってしとめる。
きれいに別れるだけの善玉でもなければ反則で相手を痛めつけるだけの悪玉でもない。目的に向かってひとつひとつの工程を淡々とこなしていく靴職人のようである。
村松友視はアントニオ猪木を「善玉」でも「悪玉」でもなく「凄玉」という造語で称した。 猪木は「凄玉」というには感情的すぎる。
ロープ際で無表情にパチーンと相手の顔を叩いたテーズは逆にやられたときも無表情である。 延々30分間ヘッドロックで頭を締め付けられた後、一瞬の隙をついてバックドロップで相手を仕留めた直後も無表情である。 喜んで「ダー」などと勝どきの声をあげたりしない。
「凄玉」というのは16歳でデビューし74歳で引退するまで58年間たんたんと現役生活を通した、ハンガリーからアメリカに移住した靴職人の息子ルー・テーズを称するのにふさわしい言葉である。
(2017.3.26)
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