神田青之丞は2022年に神田伯山に入門した。今年3年目で、まだ二つ目にはなっていない。 「寛永三馬術 : 出世の石段」は馬術の名人曲垣平九郎の出世話である。青之丞の話ぶりは師匠とはキャラが違うのにも関わらず、師匠に似せようとしていることがありありとわかる。話しぶりと声は師匠に似せようとしているが、その表情は明らかに自分のもので、これが一番難しいのだと思った。入門して3年目、どのくらい精進したら自分なりの表情で話せるようになるのか。
神田鯉花は「北斎と文晁」を読んだ。神田鯉花は2018年に神田松鯉先生に弟子入りした。2023年に二つ目に昇進。今年2年目である。後輩の青之丞よりは進歩しているが、話しぶりと表情が乖離している。気難しい葛飾北斎と人間味のある谷文晁の対比を表現しようとしているが、なかなか難しいものだ。葛飾北斎を神田愛山、谷文晁を宝井琴調にたとえていたのには笑った。
田辺いちかさんは「赤穂義士銘々伝・大高源吾」、ネタ下ろしとのこと。ネタ下ろしとはいいながら、話し振りも表情も見事なものであった。このクラスになると安心してみていられる。今日は12月9日とあって、タイムリーな演目であった。 神田鯉花と田辺いちかさんは二人とも今回の公演の前に狛江のカラオケ屋「オペラハット」で神田愛山先生に稽古をつけてもらったというのは興味深かった。二人とも稽古の後、愛山先生の昭和歌謡を聴かなければならなかったらしい。
一龍斎貞寿は「三方目出鯛」。2003年に一龍斎貞心に弟子入りし、2017年に真打ちになった。さすが真打ちともなると安心してみていられる。下男が松下陸奥守と松平陸奥守を間違えて、借金の手紙を持ち込んだことから大騒ぎになるという話である。誰一人悪意のある者が登場しない話である。
仲入りをはさんでトリは神田愛山先生。「(結城昌治原作)雪の降る夜」はハードボイルドである。まくらで日本のミステリー界について、そして結城昌治との出会いについて話したが、ミステリー好きの筆者には興味深い話であった。愛山先生の話しぶりや表情はハードボイルドにぴったりで、まるで昔の映画の探偵かヤクザのようであった。 スクリーンも何もなく、話しぶりと表情だけで、一瞬のうちに観客をハードボイルドの世界に連れ込んでくれる。そのような芸が世界中で日本以外にあるだろうか。
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