日本橋社会教育会館のホールは客席数204、講談を聴くには一番良い大きさである。今日の会はほぼ満席。講談の独演会で満席になるのはここ数年の出来事である。神田伯山人気が浸透して、他の講談師も聴いてみようという風潮になってきたのだろう。らくごカフェや墨亭での神田愛山先生の会もいつも満員である。
開口一番は宝井小琴の「戸沢白雲斎 五右衛門退治」。戸沢白雲斎は猿飛佐助の師匠ともいわれている甲賀流忍術の名人。もと摂津花隈城の城主である。大泥棒の石川五右衛門も戸沢白雲斎にかかっては手も足も出ず、翻弄されてしまう。
田辺いちかさんの最初の話は「キリストの墓」。キリストの墓は青森県十和田湖の近くの新郷村戸来に実在している。ゴルゴタの丘で磔にされたのはイエスの異父弟ヤコブであった。イエスはローマ帝国の代官ピラトから逃れ、シルクロードを旅して日本にたどり着いた。という伝承をもとに作られた話である。
続いての話は吉原の花魁もの「笹屋清花」。片目女郎として一世を風靡した清花の物語である。絶世の美女であるが片目が潰れているため、吉原の中でも最下層のくるわの飯炊きとして使われていた清が大店のナンバーワン女郎になるまでのいきさつを語る。
仲入り後は明治時代の人力俥引きの話「報恩出世俥」。冬の雪の降る日、股引きをはかずに客待ちをしている俥夫がいる。通りかかった巡査がわけを聞くと股引きを売って母親の薬代にしたという。巡査は質屋に行き、股引きを引き出してやる。俥夫は感謝して、名前は覚えられないが、顔は忘れない。顔を明るいところでよく見せてくれという。数年後、景気が良くなった俥夫は痩せて無精髭を生やした男が歩いているのを見て、あれはもしかしたら、と男の顔をよく見ると・・・。
情けは人の為ならず。正直の頭に神宿る。という諺があるが、こうして物語として語られると、胸にしみるものがある。観客はシーンとしていちかさんが語る言葉に集中していた。
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