小金井市にある浴恩館はかつて下村湖人が主催した青年のための塾である。ここには全国の青年団の指導者層が集まり、人間形成を目的として寝食を共にして切磋琢磨した。
実際にどういうことが行われていたかは「次郎物語 第五部」に詳しく書いてある。次郎物語の第一部から第四部までは著者下村湖人の幼年時代から少年時代までの体験が描かれている。第五部は自分が主催していた塾のありさまを青年になった次郎を中心に描いている。
浴恩館公園には全国の青年が寝泊りしていた「浴恩館」と下村湖人が寝泊りしていた「空林荘」があり、木立がその周りを取り囲んでいる。残念なことに空林荘は2013年2月に火事で焼失してしまった。今は土台しか残されていない。
小説では、浴恩館で何か問題が起こると次郎が朝倉先生(湖人)に相談するために空林荘に出向く。その距離感が小説で読んだ通りなのに感動した。
浴恩館は現在は郷土博物館になっている。中には小金井市で発掘された土器や、かつて使われていた機織機などが展示されている。湖人と塾生たちの写真や「次郎物語 第五部」の自筆原稿なども展示されている。
浴恩館公園の隣に小金井市図書館緑分館がある。公園の木立に溶け込むように、さっぱりして親しみやすい造りになっている。
木立の中にひっそりと「大いなる道といふもの世にありと、 思ふこころはいまだも消えず」と、湖人の思いを読んだ歌碑があった。
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