マイルス・デイヴィス / オスカー・ピーターソン / ちあきなおみ / ウィントン・マルサリス / アート・ファーマー / ライオネル・ハンプトン / ジョアン・ジルベルト / 小曽根 真 / アート・ランディ / ソニー・ロリンズ / ハウンド・ドッグ・テイラー / 北村英治 |
---オスカー・ピーターソン--- | |||
WE GET REQUESTS 同裏面 |
ピアノ : オスカー・ピーターソン、ベース : レイ・ブラウン、ドラムス : エド・シグペンという各パートの名人が集まったトリオの演奏である。彼らはコンサートなどで客席からのリクエストを受け付け、その場で演奏するということをした。「ウイ・ゲット・リクエスツ」(日本版の表題は「プリーズ・リクエスト」)というアルバム・タイトルはそういう演奏を集めたものであることを表している。 1面の「コルコヴァド」と2面の「イパネマの娘」はボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲である。 「酒とバラの日々」は映画の主題曲であり、「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」はスタンダード・ナンバー、「ピープル」と「ジョーンズ嬢に会ったかい ?」は有名なミュージカル・ナンバーである。 それぞれアメリカ人なら誰でも知っている曲をピアノトリオ向けにアレンジして、絶妙のコンビネーションで聴かせる。 真剣に構えて聴くものではなく、心地よさを得るために聴く音楽である。 本来、音楽を聴く目的はそれではないだろうか。
1961年 録音。 (2022.11.2) |
---ちあきなおみ--- | ||
ちあきなおみ大全集(CD) ちあきなおみ 夜へ急ぐ人を歌う |
◇喝采◇ ちあきなおみはこの曲で1972年にレコード大賞を受賞した。この曲から「劇場」「夜間飛行」と、ドラマチックな人生を生きてきた女性を歌う路線が続く。 ◇雨に濡れた慕情◇ ちあきなおみのデビュー曲である。サビの部分「すきでわかれたあの人の 胸でもう一度甘えてみたい」と歌うときの声ののびはデビュー時から引退する直前まで全然変わっていない。 ◇円舞曲◇ 「円舞曲」をワルツと読ませる。演歌をワルツのリズムで歌う。 ◇かなしみ模様◇ 典型的なジャパニーズ・ポップス。 ◇五番街のマリーへ◇ ペドロ&カプリシャスの代表曲。高橋真梨子より軽く歌っている。 ◇愛のくらし◇ 作詞:加藤登紀子、作曲:アルフレッド・ハウゼ。加藤登紀子が歌った日本のスタンダード・ナンバーである。ちあきなおみの深い声で歌うと、しみじみする曲である。 ◇あなたのすべてを◇ 作詞、作曲 : 佐々木 勤。伊藤ゆかりが歌った、やはり日本のスタンダード・ナンバーである。。 ◇花吹雪◇ 「駅裏の小さな店 私もこの店をしめて 生まれた町へ 戻って行くわ」と歌う、はかない女の歌。 ◇四つのお願い◇ ちあきなおみはデビュー当時はお色気路線の曲を歌っていた。本曲と「X+Y=LOVE」「無駄な抵抗やめましょう」はその代表的な曲である。 ◇ルージュ◇ 作詞、作曲 : 中島みゆき。「つくり笑いがうまくなりました ルージュひくたびにわかります」と繰り返される歌詞はまさに中島みゆきの世界。中島みゆきより軽く歌ってちあきらしさを出している。 ◇わかって下さい◇ 作詞、作曲 : 因幡 晃 。因幡晃の絶唱に対して、ちあきはつぶやくように歌う。最後は消え行くように。 ◇氷の世界◇ 作詞、作曲 : 井上陽水。陽水の歌が男の情念を表したものなら、ちあきの歌は女の情念をあらわにした「氷の世界」である。ハスキーで低めの声で歌うが、サビの部分ではオペラのアリアのような高い音で盛り上げる。 ◇あまぐも◇ 作詞、作曲 : 河島英五。「あまぐも」は「雨雲」。演歌の世界をドラマチックに歌う。 ◇夜へ急ぐ人◇ 作詞、作曲 : 友川かずき。ちあきなおみが1977年の紅白歌合戦でこの曲を歌った時、会場の空気が凍りついたという。真っ黒なドレスに赤い腰ひもといういで立ち。にらみつけるような表情。その狂気に満ちたパフォーマンスに、司会を務めていたNHKの山川静夫アナウンサーは、「なんとも気持ちの悪い歌ですねえ」と台本にはない感想を思わず口にしたそうである。 曲と曲の間に挟まれたモノローグ「ネオンの海に目を凝らしていたら 波間にうごめく影があった」はまるでラヴクラフトのクトルウ神話のようで不気味だが、2コーラス歌われるサビの部分の歌詞「あたしの心の深い闇の中から おいでおいで おいでをする人 あんた誰」は何度聴いてもゾッとする。 全曲を聴いて、ちあきなおみの特徴は声の音色の豊かさだと思う。カバー曲を歌って本家の歌手よりも曲に深みが出るのは、声の豊かさからくるものだろう。
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---ウィントン・マルサリス--- | |||
THINK OF ONE 同裏面 |
Side A、1曲目の「ノズ-モー-キング」はジェフ・ワッツの軽快なドラムに乗ってウィントン・マルサリスの奔放なトランペットが鳴り響く。途中現れるドラムスとケニー・カークランドのピアノのアドリブのやりとりが凄い。 2曲目の「フューシャ」はケニー・カークランドのオリジナル曲。途中ソロで現れるピアノの音は透明感が最高である。 3曲目の「マイ・アイデアル」は1930年のミュージカル「Playboy in Pais」の挿入歌で、ジャズのスタンダード曲である。ウィントンはトランペットで軽快に歌いまくっている。ケニー・カークランドのピアノとフィル・ボウラーのベースによるバッキングが心地よい。 Side Bの1曲目はセロニアス・モンク作曲の「シンク・オブ・ワン」。モンク作曲だから一風変わった曲である。ケニー・カークランドのピアノがモンクらしさを際立たせている。ブランフォード・マルサリスのテナーサックスとウィントン・マルサリスのトランペットが交互にソロをとる。 2曲目の「ザ・ベル・リンガー」は本アルバム中一番長い曲で9分の演奏である。1980年代の録音なのでトランペット、ピアノ、ソプラノサックスと続くソロ楽器の音がクリアで臨場感がある。 3曲目の「レイター」はウィントンのキリのように鋭いトランペット・ソロで始まる。レイ・ドラモンドのベースが強力にバックを支える。 最後の曲「メランコリア」はデューク・エリントンの曲である。ゆっくりしたバラードをウィントンのミュート・トランペットが優雅に締めくくる。
1983年2月15〜18日、ニューヨークにて録音。 (2022.9.2) |
---アート・ファーマー--- | |||
MODERN ART 同裏面 |
1面の「フェアー・ウェザー」はベニー・ゴルソン作曲によるもので、フランス映画「殺られる」のテーマ曲としても使われている。フォー・ビートのノリの良い曲である。途中ソロをとるビル・エバンスのピアノは硬質で澄んだ独特の音である。 「ダーン・ザット・ドリーム」は1939年のミュージカル「スィンギン・ザ・ドリーム」の主題歌である。この年代のミュージカルはモダン・ジャズの貴重な原曲になっている。。 「タッチ・オブ・ユア・リップス」もジャズのスタンダード・ナンバーである。アート・ファーマーの澄んだトランペット・ソロから始まり、ビル・エバンスのピアノに引き渡される。さらにベニー・ゴルソンのテナーサックスに移り、華やかなアドリブが繰り広げられる。 2面の「ジュビレーション」はベニー・ゴルソンの骨太のテナーサックスから始まる。続いてアート・ファーマーの澄んだ音色のトランペットが引き継ぐ。このグループはゴルソンとファーマーとエバンスのクールで小粋な演奏がどの曲にもぴったり合っている。 2曲目の「恋の気分で」はコール・ポーター作曲のスタンダード曲。ゴルソンのなテーサックスが恋を語る。 3曲目の「アイ・ラブ・ユー」もまたコール・ポーター作曲。ファーマーのミュート・トランペットが歌いまくる。 全体を通してベニー・ゴルソンというミュージシャンは音色といい奏法といいモダン・ジャズそのものといって良い。彼が作曲した「ドラム・サンダー組曲」や「ウィスパー・ノット」はモダン・ジャズのスタンダード・ナンバーになっている。また演奏者としてはアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの名盤「モーニン」に参加している。 休日にゆったりした気分で聴くのにふさわしいアルバムである。
1958年9月10日〜14日、ニューヨークにて録音。 (2022.8.2) |
---ライオネル・ハンプトン--- | |||
LIONEL HAMPTON ALL STAR BAND AT NEWPORT 同裏面 |
ライオネル・ハンプトン・オールスター・バンドの1978年のニュー・ポート・ジャズ祭で行われたコンサートの実況録音盤である。会場は音楽の殿堂カーネギー・ホールである。 A面はじめの2曲はジャズのスタンダード・ナンバーである。「サヴォイでストンプ」はベニー・グッドマン楽団の演奏が有名である。「明るい表通りで」も聴けば誰でも知っている曲である。演奏の途中からライオネル・ハンプトン自身が歌っている。 「ハンプス・ザ・チャンプ」では途中のトランペットとトロンボーンのブロー合戦がすごい迫力である。ジャズ祭におけるジャムセッションならではの演奏である。 B面の「カーネギー・ホール・ブルース」はピアノ・トリオ+ライオネル・ハンプトンのヴァイブというカルテットの演奏である。しっとりした曲で、レイ・ブライアントのピアノとライオネル・ハンプトンのヴァイブのジャズ演奏らしいやりとりを聴くことができる。 実況録音盤なので観客の手拍子や掛け声がそのまま録音されていて、熱狂的な雰囲気がそのまま伝わってくる。熱狂的すぎて楽器の音がよく聴こえなかったり途切れたりしている箇所もある。じっくり聴くというより、ジャズ祭の雰囲気を味わうレコードである。特に最後の曲「フライング・ホーム」ではミュージシャンも観客もノリノリで、部屋が観客席の一部になったかのようである。
1978年7月1日、ニューヨーク市、カーネギー・ホールにて録音。 (2022.7.4) |
---ジョアン・ジルベルト--- | |||
これがオリジナル・ |
ボサ・ノヴァの創始者ジョアン・ジルベルトの初期のアルバムである。 軽いギターに軽い歌声、それがボサ・ノヴァである。不思議なことにジョアン・ジルベルト以外の人がボサ・ノヴァを歌うとこの軽さが出ない。濁った軽さになってしまう。 ジョアン・ジルベルトのは透明な軽さで、軽いのにどこまでも届く声だ。静かな夜、ひとりで聴くのにふさわしいアルバムである。 「ワン・ノート・サンバ」「ノー・モア・ブルース」「デサフィナード」「コルコヴァード」はスタンダード・ナンバー中のスタンダード・ナンバーといえる曲である。 本アルバムはアントニオ・カルロス・ジョビンがミュージカル・ディレクターをしている。ジョアン・ジルベルトと共にボサ・ノヴァを作り上げた創始者の一人である。原題「O AMOR, O SORRISO E A FLOR」というこのアルバムはボサ・ノヴァ最高の傑作である。
1958年 録音。 (2022.6.8) |
---小曽根 真--- | |||
PHIL WILSON & MAKOTO OZONE LIVE!! 同裏面 |
フィル・ウィルソン(tb)と小曽根真(pf)のデュオ・アルバムである。トロンボーンとピアノの組み合わせは珍しいが、これはバークリー音楽大学の卒業記念として制作されたものである。 バークリー音楽大学の卒業生は日本にも数多くいる。たとえば穐吉敏子(pf)、渡辺貞夫(as)、佐藤允彦(pf)、大坂昌彦(ds)、大西順子(pf)、上原ひろみ(pf)、山中千尋(pf)など。小曽根真(pf)もそのひとりである。 1面の「ステラ・バイ・スターライト」は有名なスタンダード曲である。元はヴィクター・ヤングが1944年の映画「呪いの家」のために作曲した映画音楽である。レイ・ミランド主演のホラー&ラブストーリーという映画は誰も知らないと思われるが曲は残っている。これからも永遠に残るだろう。 「ヒヤズ・ザット・レイニーデイ」は1953年のミュージカル「Carnival in Flanders」のためにジミー・ヴァン・ヒューゼンが作曲した。舞台は5日間で中止となったが、曲はフランク・シナトラが取り上げて広く知られるようになった。この曲もまた永遠に残る名曲である。 「グレイビー・ワルツ」はレイ・ブラウン作曲によるグレイビーソースの歌。親しみやすい曲である。ふたりともリラックスして演奏している。観客の歓声も録音されていて、皆リラックスしているのがわかる。 2面の「ズィーズ・アー・ザ・デイズ」はフィル・ウィルソンのオリジナル曲。落ち着いたバラードである。 「マイ・ナハティ・スウィーティ・ギブ・トゥーミー」はラグタイム風の軽快な曲。ユーモラスな曲である。 「ジャイアント・ステップス」はジョン・コルトレーン作曲の曲。ジャズの名曲である。コルトレーンがテナーサックスで吹いているところをフィル・ウィルソンは高速トロンボーンで吹きまくる。小曽根は高速ピアノでそれに追随する。洒落た編曲である。 アコースティックな楽器の良さを追求したアルバムである。
1982年11月2日 The Berklee Performance Centerにて録音。 (2022.5.7) |
---アート・ランディ--- | |||
DESERT MARAUDERS 同裏面 |
本アルバムの題名は「DESERT MARAUDERS(砂漠の襲撃隊)」である。本来ジャズの題名は大した意味はない。カッコよければ良いのである。「砂漠の襲撃隊」はカッコ良いし、ユニット名の「RUBISA PATROL(ルビサ・パトロール)」もカッコ良い。 A面1曲目はユニット名になった「ルビサ・パトロール」。探検家アルフォンソ・ルビサにちなんで名付けたという。針を下ろすとピアノによるアラビア風のメロディが鳴り響き、それにかぶさるようにトランペットの高音が鳴り響く。マーク・アイシャムのトランペットはどこまで行っても透明だ。クルト・ウオルトマンの腹に響くドラムスの上で、テーマを弾くアート・ランディのピアノは砂漠を吹く風のように軽快である。 2曲目の「リブレ」は躍動的な1曲目とはうって変わってピアノによる内省的な曲。トランペットも静かに追従する。 B面1曲目は「悲歌」。ピアノによる親しみやすいテーマから始まる。トランペットがテーマを繰り返した後、アドリブの演奏が始まる。輝くような響き。マーク・アイシャムのトランペットは透明感がある。 続いてビル・ダグラスのフルートの独奏から始まる「ペレランドラ」。ピアノが割り込んできて不思議な音楽になっていく。未知の土地に踏み込んでいく探検隊のようだ。先に何があるかわからない。 マーク・アイシャムのトランペットから始まる「サンサラ」。晴れ晴れと帰還する探検隊のようだ。アート・ランディの躍動感に満ちたピアノソロが続く。クルト・ウオルトマンのドラムスもしっかりとグループの演奏を下支えしている。 A面1曲目の音をいつも流しておきたいのだが、LPレコードでは難しいのが難点である。
1977年6月 トーンスタジオ、Ludwigsbergでの録音。 (2022.4.13) |
---ソニー・ロリンズ--- | |||
LOVE AT FIRST SIGHT LOVE AT FIRST SIGHT裏面 |
1950年代から活躍しているソニー・ロリンズが1980年に録音したアルバムである。2010年に80才記念コンサート・ツァーを開催したロリンズは現在91才。生きるジャズの歴史というべき存在である。 1面の「リトル・ルー」はロリンズ得意のノリのいい曲。カリプソのリズムに乗せて単純なテーマをアドリブを交えて何度も繰り返すうちに踊り出したくなるような曲である。ロリンズのテナーサックスをあおるようなジョージ・デュークのピアノが心地よい。スタンリー・クラークのエレクトリック・ベースがギターのように響く。 「ストロード・ロード」はロリンズの極め付けの名曲であり、モダン・ジャズの代表的な曲である。ロリンズは有名なテーマを吹いた後、アドリブに入る。ジョージ・デュークのノリの良いエレクトリック・ピアノが伴奏する。ロリンズは天馬空を行くようなアドリブで応じる。アル・フォスターの雷のようなドラムスが続き、演奏はノリに乗る。 2面の「ザ・ベリー・ソート・オブ・ユー」はナット・キング・コールやドリス・ディの歌唱で有名なスタンダード・ナンバー。ロリンズの語りかけるようなテナーサックスのソロで始まる。ジョージ・デュークのしっとりとしたピアノが続き、スタンリー・クラークのベースが支える。ロリンズのテナーサックスはアドリブほとんどなしで、静かに歌い終える。 「カレス」はジョージ・デュークの作品。ジョージ・デュークのエレクトリック・ピアノとスタンリー・クラークのエレクトリック・ベースがフィーチュアされる。ロリンズはフリー・ジャズ風にブローする。 「ダブル・フィーチャー」はロリンズとスタンリー・クラークがフィーチュアされる。スタンリー・クラークのエレクトリック・ベースはまるでエレクトリック・ギターのように聴こえる。独特のチューニングである。
1980年5月9-12日 Fantasy Studio, Berkeleyで録音。 (2022.3.6) |
---ハウンド・ドッグ・テイラー--- | |||
Hound Dog Taylor 同裏面 | ハウンド・ドッグ・テイラーはシカゴのクラブでブルースとブギウギを演奏するギター奏者・ヴォーカリストである。金属のスライドバーを使ってギターを独特の音で鳴らしながら、歌いまくる。歌と言っても、ひたすら「行かないで、行かないで、行かないで」とか「行ってしまった、行ってしまった、行ってしまった」などの簡単な歌詞を繰り返すだけである。それらはいつの間にか胸の裏側に入り込んでいて、ある部分を刺激し、郷愁を掻き立てる。 声は甲高く、吠えるように歌う。吠えるように歌うから猟犬なのか。それとも「嫌な奴」「卑劣漢」の意味を指すハウンド・ドッグなのか。 全12曲中、5曲がヴォーカルの入らない器楽演奏である。スライド・ギターの音は吠えるようである。肉声とギターが混じり合って、独特の音楽が演奏される。 「She's Gone」で「シーズゴーン、シーズゴーン」と繰り返す声がギターの音のように聴こえ、高音で繰り返すギターの音が「シーズゴーン、シーズゴーン」とリフレインしているように聴こえる。。 「Walking The Ceiling」と「55th Street Boogie」は器楽のみの演奏であるが、自由奔放なギターの音に釣られて、体が動いてしまう。 神経をすり減らすような人間関係に刺々しい気分になった時、自分本来の感情を取り戻したい時、音量を少し大きめにして聴くと、乾いた地面に降る慈雨のように、カサカサになった心を溶きほぐしてくれるかもしれない。
1971年 シカゴで録音。 (2022.2.5) |
---北村英治--- | |||
RIGHT-OH 同裏面 |
八城一夫トリオに北村英治が加わったテンポラリーのカルテットである。本アルバムでは得意なディキシーランド・ジャズではなく、モダンジャズの曲を演奏している。 A面1曲目の「オール・ザ・シングズ・ユー・アー」は1939年にジェローム・カーンによって作曲されたミュージカルの主題歌であるが、多くのジャズ・ミュージシャンに演奏されている。聴き比べをした人がいて、HPに載せている。全部で33組の演奏を聴いている。たとえば、 エラ・フィッツジェラルド、キース・ジャレット・トリオ、コールマン・ホーキンス、ジョニー・グリフィン、クリフォード・ブラウン、ビル・エヴァンス、バド・パウエル、、渡辺貞夫、フィル・ウッズ等々。名前を見ただけで聴いてみたくなる。 残念なことに評者は本アルバムを聴いていない。北村の軽くてノリの良いクラリネット、八城のアドリブの効いたピアノ、原田政長の落ち着いたベース、出しゃばらない五十嵐武要のドラムス。それぞれが分をわきまえたチームワークの良い演奏である。 「モリタート」はソニー・ロリンズの演奏が有名であるが、元々は1928年初演の舞台「三文オペラ」の劇中歌である。作曲はクルト・ヴァイル。北村はバス・クラリネットでユーモラスな味を出している。 「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」も有名な曲。カバーしているミュージシャンは100組を超えるだろう。北村はアルト・サックスでこの曲を吹いている。彼はデキシー・ジャズの名手だが、モダン・ジャズの奏者としても一流である。 「ジャスト・スクィーズ・ミー」はマイルス・デイヴィスの演奏が有名である。北村はバス・クラリネットでアーシーでジャジーな演奏を繰り広げている。八城のピアノ、原田のベースとのやりとりが聴かせる。 B面1曲目の「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」は「あなたがいなくなったら 星たちは空から落ちるでしょう あなたがいなくなったら 木々の葉は萎み枯れるでしょう」と歌うバラード。北村のクラリネットは深刻にならず、軽快に歌い上げている。 「エブリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」は1949年にフランク・シナトラをフィーチャーしてトミー・ドーシーオーケストラがレコーディングした曲。しっとりとしたバラードを北村のアルト・サックスと八城のピアノのやりとりが楽しい。ピアノの音がきれい。 「ホワット・キャン・アイ・セイ・ディア」は軽快な曲。北村は途中でクラリネットをバス・クラリネットに持ち替えて歌いまくる。八城のピアノがタイミングの良い合いの手を入れる。 「ライク・サムワン・イン・ラブ」はビング・クロスビーが1945年にこの曲を歌ってヒットさせた。ジャズのスタンダード曲。アップテンポの軽快な曲。北村英治にふさわしい選曲である。
1974年7月3日 東京都千代田区の都市センターホールで録音。 (2022.1.4) |