ちあきなおみ / キース・ジャレット / マージー・ジョセフ / 弘田三枝子 / ビル・エヴァンス / スタン・ゲッツ / ジョー・スタッフォード / クリフォード・ブラウン / グレッグ・フィッシュマン / ウェザー・リポート / ハリー・コニック, Jr / ランバート、ヘンドリックス&ロス / 宮沢 昭 / アート・ランディ |
---キース・ジャレット--- | ||
THE KOLN CONCERT(CD) 同裏面 2003年のキース・ジャレット |
今年(2020年) 10月22日「音楽家のキース・ジャレットさん まひ残り復帰困難か」という記事がネットに出ていた。 世界的な米ジャズピアニストのキース・ジャレットさん(75)が2018年に2度、脳卒中を患い、左手にまひが残っていることが明らかになった。米ニューヨーク・タイムズ紙が本人に取材し、21日に伝えた。「自分がピアニストと感じられない」と語ったといい、同紙は、ジャレットさんが今後公演に復帰することはありそうにない、と伝えた。同紙によると、ジャレットさんがニュージャージー州の自宅から電話取材に応じた。18年2月に最初の、同年5月に2度目の脳卒中を起こしたという。本人は「左半身がまだ部分的にまひしている。杖を使って何とか歩けるが、ここまで回復するのに1年か、それ以上を要した」と話したという。 ピアニストにとって、半身麻痺は致命的だろう。思い出したのは「ケルン・コンサート」だ。キース・ジャレットが世界的に有名になったのはこのレコードの発売がきっかけだった。 ピアノ・ソロコンサート、しかも全曲インプロビゼーションによる。当時画期的なことだった。しかもその音の透明で躍動的なこと。 まるでスタジオ録音されたかのように、静寂の中に響くアコースティッ・ピアノの音。最後に延々と拍手が続き、これはライブ演奏だったんだ、と気づかされる。 演奏は必ずしも万全の態勢で録音されたのではなく、むしろ悪条件のもとでなされたという。 「バランデスはジャレットのリクエストに応えてベーゼンドルファーのモデル290インペリアル・コンサート・グランド・ピアノを用意する手はずを整えた。しかし会場のスタッフが持ってきていたのは、それよりはだいぶ小ぶりのベーゼンドルファーの別のグランド・ピアノだった。さらに不運なことにそのピアノはオペラのリハーサルに使われていたあとで調律さえされていなかった。なんとか調律はできたものの、耳障りな高音と響きの悪い低音が残り、ペダルもうまく動かないという状態であった」 「彼の体調も万全ではなかった。その前に公演を行ったスイスのチューリッヒから約563キロ、5時間のドライブをし終えたばかりだった。しかも数日間不眠が続いたことによる背中の痛みに悩まされていた。背骨を支えるために腰にサポーターを着け、オペラのパフォーマンスが行われたあとの深夜23時半にステージに上がった。それまで行ってきたソロ・コンサートと同様、事前の準備なしの完全即興で、曲名らしい曲名もついていない」 ということであった。まさかこのレコードが400万枚のセールスを達成し、最も売れたジャズのソロ・アルバムになろうとは誰も予想していなかっただろう。
1975年1月24日 ケルンのオペラ劇場にて録音。 (2020.11.2) |
---マージー・ジョセフ--- | |||
MAKES A NEW IMPRESSION 同裏面 |
たまたま手に入った輸入盤である。マージー・ジョセフという歌手は知らなかった。予備知識なしで聴いてみた。 すごくよかった。声の質が良い。リズム感が良い。ずっと聴いていたくなる。CDならリピートで流しておくのも良いだろう。 1面、第1曲目「Monologue:Women Talk」は題名通り、終始モノローグで、バックはベースの合いの手が入るくらい。そのままシュープリームスのヒット・ナンバー「Stop In The Name Of Love」に入っていく。本アルバム中もっとも長い演奏(8分)である。最後はゴスペル調でフェイドアウトする。 アメリカではアレサ・フランクリンやチャカ・カーン、ダイアナ・ロスの系統のソウル&ゴスペル・シンガーの位置にいるらしい。ヒット曲に恵まれれば日本での知名度ももっと上がっだろう。歌手は1曲のヒット曲で評価が180度変わる。 ゴスペル調の「Same Thing」「I'm Fed Up」、ポップ調の「How Beautiful The Rain」「Make Me Believe You'll Stay」、マージー・ジョセフは本アルバムで色とりどりの歌声を披露してくれる。
録音データなし。 (2020.10.3) |
---弘田三枝子--- | |||
Step Across 同裏面 同中袋 同中袋 |
弘田三枝子は本年(2020年) 7月21日、73才で亡くなった。本アルバムは1978年、彼女が31才の時に発売された。 弾けるような歌声は誰もが天才と称した。「西洋のリズム・メロディラインと日本語の言語としての伝達能力の問題を克服する手段として、英語っぽい日本語を考え出した」とか、後のミュージシャン(都はるみ、大瀧詠一、山下達郎、竹内まりや、桑田佳祐ら)に多大な影響を与えた、といわれている。 本アルパムより12年前の「MIEKO IN NEW YORK」でも素晴らしい録音を残したが、本アルバムも負けず劣らず素晴らしい。バックのリチャード・デイビス(b)やビリー・コブハム(ds)、ジョー・ファレル(ts,fl) 等の名手たちをリードするかのように自由自在にジャズを歌っている。 A面の「Bewitched」におけるスキャットは完全にリズムに乗って歌いこなし、歌声を聴いただけでは、彼女を日本人と指摘することは困難だろう。 ジャズのスタンダード曲「My One And Only Love」はジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマンの共演盤が有名だが、ジョー・ファレルのテナー・サックス、日野皓正のトランペットをバックに歌う彼女の歌もしっとりしているが、ウェットになることなく、独特の説得力がある。 B面の「A Foggy Day」ガーシュイン作曲のジャズの定番の曲だが、この編曲には驚いた。まるで日本の歌謡曲のようだ。歌謡曲風に歌って立派なジャズ・ヴォーカルになっている。これを聴いたアメリカ人は新鮮に感じるのではないだろうか。 タイトル曲の「Step Across That Line」では日野皓正と共演している。日野の燃えるようなトランペットに対抗して、弾けるような歌声は彼女の本領発揮だ。 彼女のような本格派の歌手が輝けないような日本のショービジネス業界は世界から一歩も二歩も遅れている。
1977年 ニューヨークで録音。 (2020.9.3) |
---ビル・エヴァンス--- | ||
Waltz for Debby (CD) My Foolish Heart   |
モダン・ジャズの名盤である。本アルパムは1961年、ニューヨークのライブハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライブ録音である。 本演奏がリバーサイド・レコードによってライブ録音された11日後の7月6日、ベーシスト、スコット・ラファロが交通事故で他界した。25才であった。1956年にトランペッターのクリフォード・ブラウン(当時25才)が仲間の運転する車に乗っていて事故で死亡するなど、すぐれたジャズ演奏家が何人も交通事故で亡くなっている。 本アルバムにおけるスコット・ラファロの素晴らしい演奏を耳にすると、惜しいとしか言いようがない。 「マイ・フーリッシュ・ハート」はジャズのスタンダード・ナンバーである。多くのスタンダード・ナンバーがそうであるように、本曲もアメリカの古いミュージカルから来ている。資料によると、1949年のアメリカの恋愛映画。原作は J・D・サリンジャーの短編小説「コネティカットのひょこひょこおじさん」。ヴィクター・ヤング、ネッド・ワシントン作曲となっている。 最近ではジャズ・ミュージシャン、チェット・ベイカーの伝記映画の題名にもなっている。 元になった映画は古典的なメロドラマということであるが、ビル・エヴァンスの解釈はすばらしい。内省的でしっとりとした一つの世界を作り上げている。ビル・エヴァンス - ピアノ、スコット・ラファロ - ベース、ポール・モチアン - ドラムスの三人が作り上げた5分間の世界は確固としてそこに存在している。アルバムの冒頭にこの曲を配置したことでアルバム全体の立ち位置を明確にしている。ポール・モチアンのシンバルの音が頭上から雪のように降ってくる。 「ワルツ・フォー・デビイ」はエヴァンスが1956年に作曲し、当時2才の姪デビイに捧げた曲である。曲の冒頭にピアノ・ソロで提示されるテーマのメロディは一度聴いたら忘れられない。 テーマを演奏した後、ポール・モチアンの軽快なドラムスが絡んでいく。気がつくとスコット・ラファロのベースがしっかりと低音部を支えている。テーマが少しずつ変化し、アドリブになるとまるで小さな女の子がそこで遊んでいるかのようなイメージが展開される。曲の最後に観客の拍手が聞こえて初めてこれがライブで演奏されたものだと気づく。この演奏を生で聴いた観客は自分たちがどんなに幸運だったかに気づいているのだろうか。 「デトゥアー・アヘッド」はエヴァンスの内省的なピアノ演奏に応じるかのように、スコット・ラファロのささやくような、独り言を繰り返しているかのような小刻みなベースのタッチが印象に残る。 「マイ・ロマンス」を聴くとこのトリオは本当に気が合っていたんだろうな、と思う。スコット・ラファロのベースが実によく効いている。 「マイルストーンズ」はマイルス・デイヴィス作曲のアップテンポの曲。ビル・エヴァンスはアップテンポの曲でも内省的に演奏してしまう。スコット・ラファロの小刻みなウッド・ベースの音が耳に心地よい。演奏は観客の笑い声と共に終わる。 「ポーギー」はガーシュイン作曲のミュージカル「ポーギーとベス」の中の曲である。ビル・エヴァンスのクラシック志向が出た演奏となっている。
1961年6月25日 ニューヨーク、「ヴィレッジ・ヴァンガード」でのライブ録音。 (2020.8.9) |
---スタン・ゲッツ--- | |||
Getz Byrd Jaspar Clark 中扉1中扉2 |
Side Aの「More Of The Same」はトラディショナルと書いてある。イタリアの民謡ででもあろうか。本アルバムはイタリア版である。演奏はトランペットのドナルド・バードとテナーサックスのボビー・ジャスパーの火の出るような掛け合いから始まる。その後に軽快なピアノが続くが、ピアニストの名前はクレジットされていない。彼らの演奏はこの曲だけである。 「They All Fall In Love」はコール・ポーター作曲のスタンダード・ナンバー。スタン・ゲッツのテナーサックス・ソロが切々と歌う。印象的なベースはPierre Michelot、軽快なドラムスはケニー・クラークである。 「All God's Children Got Rhythm」「Broadway」は同じメンバーによるカルテットによる演奏である。ピアノはMartial Solal。ゲッツが吹きまくり、ケニーが打ちまくる。 Side Bは「太陽は東、月は西」から始まる。ゲッツのテナーサックス・ソロから始まり、ケニー・クラークのキレの良いドラムスにつなげる。 「トプシー」はカウント・ベイシー作曲、Jimmy Gourlyのエレキ・ギターがテーマを弾き、ゲッツのテナーサックスがそれを受けてアドリブを開始する。下を支えるのはケニーのドラムスである。 「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」はセロニアス・モンク作曲のジャズの名曲。夜明け前の不安な心の状態をゲッツのテナーサックスが見事に表現する。ライブ録音らしく観客のざわめきや拍手も聞こえてくる。
1958年 ライブ録音。 (2020.7.26) |
---ジョー・スタッフォード--- | |||
IN THE MOOD FOR LOVE |
ジョー・スタッフォードは本名ジョー・エリザベス・スタッフォード。その活動期間は長く、1930年代後半から1980年代前半までの50年間に及んだ。第二次世界大戦中は「ホームシック・ヴォイス」と呼ばれて兵士たちに親しまれた。そういわれて改めて聴いてみると何とも言えない安心感に包まれる。故郷の暖炉の前に腰掛けて暖かいコーヒーを飲みながら昔話を聞くような。 本アルバムに取り上げられた曲はいずれも1930年代から1950年代くらいまでの映画やミュージカルの主題歌である。 1面の「I'M IN THE MOOD FOR LOVE」は日本語訳「恋の気分に」、1935年の映画「夜毎8時に」の主題歌である。 2面の「THEY SAY IT'S WONDERFUL」は1946年のミュージカル「アニーよ銃をとれ」の主題歌、「I FALL IN LOVE TOO EASILY」は1945年の映画「錨を上げて」でフランク・シナトラが歌った主題歌である。 「ALL THE THINGS YOU ARE」(君こそわがすべて)は、1939年のミュージカル「5月にしては暑すぎる」という出典は知らなくても、聴けば誰でも知っているジェローム・カーン作曲のスタンダード・ナンバーである。ジョー・スタッフォードの暖かくて伸びのある歌声が全身をやさしく包んでくれる。
1952年〜1958年 録音。 (2020.7.5) |
---クリフォード・ブラウン--- | |||
CLIFFORD BROWN=MAX ROACH LIVE IN CHICAGO VOL.1 |
1面の「I'LL REMEMBER APRIL」(四月の思い出)は31分にわたって繰り広げられる。こういう構成は1955年のアルバムにしては珍しい。 ライナー・ノーツの油井正一氏の解説によると、音源はマックス・ローチのプライベート・テープで、1976年来日した時に聴かせてもらったとのこと。もともとはリッチー・パウエル夫妻のもので、夫妻とクリフォード・ブラウンが1956年交通事故で亡くなった時に大破した車の中から発見されたものらしい。自分たちの演奏をチェックするために録音しておいたものだ。したがって本アルバムは日本だけの発売である。 クリフォード・ブラウンはジャズクラブでの演奏なので時間にこだわらず、のびのびとプレイしている。「I'LL REMEMBER APRIL」ではテーマを提示した後、羽根が生えたように延々とアドリブを繰り広げている。生で聴いていた聴衆はこたえられなかったことと思う。 2面の「WOODY'N YOU」はクリフォード・ブラウンのテーマ演奏の後、ソニー・ロリンズのテナー・サックスによる長いアドリブが続く。レオ・プレヴィンスのエレキ・ギターの音が心地よい。時々聴衆の掛け声が入り、シカゴの深夜のジャズクラブで聴いている錯覚に陥る。 「HOT HOUSE」は「恋とは何でしょう」のコードを使ってタッド・ダメロンが作った曲。初めにオリジナルのメロディが1小節だけ出てくる。クリフォード・ブラウンの小気味良いトランペットによるアドリブが延々と続く。ジャズクラブでの実況録音ならではの構成である。
1955年 11月 7日 シカゴ・サウスサイド「ビー・ハイヴ」 にて録音。 (2020.6.19) |
---グレッグ・フィッシュマン--- | ||
INDIAN SUMMER (CD) |
テナー・サックス : グレッグ・フィッシュマンとピアノ : エディ・ヒギンズのデュオ・アルバムである。 録音時32才のグレッグ・フィッシュマンと67才のエディ・ヒギンズは年の差はあれど、まるで友人同士のようにホーンとピアノで息の合った会話を繰り広げる。この編成のジャズもなかなか良い。 選曲はグレッグがしたらしいが、50年代のスタンダード・ナンバーで統一しているのも良い。何よりも気持ちがゆったりする。 アントニオ・カルロス・ジョビン作曲のボサノバの名曲「O Grande Amor」は絶妙の編曲でまるで違う曲を聴いているようだった。 最後の曲はコール・ポーター作曲の「What Is This Thing Called Love」(恋とは何でしょう) 。グレッグはオーソドックスに曲に入ると趣味の良いアドリブを繰り広げる。引き継いだエディ・ヒギンズも自由奔放なアドリブで切り返し、短い小節をやりとりした後、親しみのあるテーマに戻り、ラストを締めくくった。聴き終えた後、心地よい余韻が残る。
1999年 7月2日 シカゴのスタジオ にて録音。 (2020.5.26) |
---ウェザー・リポート--- | |||
MR. GONE(表) MR. GONE(裏) |
マイルス・デイヴィスのグループでエレクトリック・サウンドを提供していたキーボード奏者のジョー・ザヴィヌルと黒魔術風の楽曲を提供していたサキソフォン奏者のウェイン・ショーターがマイルス・グループを卒業したのち、グループを作って独自のエレクトリック・サウンドをやり始めた。 1971年に発表した「ウェザー・リポート」が大ヒットした。キーボード、サキソフォン、ベース、ドラムスという古典的なカルテットのサウンドはまるでオーケストラのように響いた。 ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーター以外のメンバーは数年おきに変化した。本アルバムは中期のグループで、ウェイン・ショーター (Tenor Sax, Soprano Sax)、ジョー・ザヴィヌル (Electric Piano, Acoustic Piano, Synthesizer)、ジャコ・パストリアス (Electric Bass, Drums, Voice, Timpani )、ピーター・アースキン (Drums , Hi-Hat)という編成であった。 さらにゲスト・プレイヤーとしてトニー・ウィリアムス (Drums)、スティーヴ・ガッド (Drums)、マノロ・バドレーナ (Voice)、ジョン・ルシアン (Voice)、デニース・ウィリアムズ (Voice)、モーリス・ホワイト (Vocals)が参加した。 「The Pursuit Of The Woman With The Feathered Hat」 :「貴婦人の追跡」という訳がついている。コーラス入り。アフリカの民族音楽風。 「River People」「The Elders」 : ウェイン・ショーター、ジョー・ザヴィヌル、ジャコ・パストリアスの3人でやっているとは思えないほど厚みのある音楽。 「Young And Fine」 : クールな曲の中で本曲だけ熱を持った演奏が繰り広げられる。ウェイン・ショーターのテナーサックスが大迫力。 「Mr.Gone」「Punk Jazz」: トニー・ウィリアムス : ドラムス、ウェイン・ショーター : テナーサックス、ジョー・ザヴィヌル : キーボード、ジャコ・パストリアス : ベースという黄金のカルテットによる演奏。 「Pinocchio」 : ピーター・アースキンのドラムスとジャコ・パストリアスのベースの掛け合いがすごい。 「Ang Then」 : キーボードとコーラスによる環境音楽風。 個人の演奏に重きを置いた60年代のモダンジャズとは方向が違う。ウェザー・リポートが活躍した1970年からの15年間はグループ音楽、フュージョン音楽全盛の時代であった。
1978年 5月 ハリウッド、デヴォンシャー・サウンド・スタジオ にて録音。 (2020.5.4) |
---ハリー・コニック, Jr.--- | |
LOFTY’S ROACH SOUFFLE Harry Conic Jr. : piano Benjamin J. Wolfe : Bass Shannon Powell : Drums |
一時期評判になったハリー・コニックJrである。彼はピアニストからスタートしたが、その後ヴォーカリストになり、俳優になった。どれも一流でマルチタレントとして活躍している。 そのことに抵抗があり、今まで聴いたことがなかった。近所のブックオフの閉店セールで、雑多な種類のCDの中に埋もれていたのをタダ同然の値段で購入した。 一度聴き始めたらやめることができず、ほとんど毎日聴いていて、飽きない。彼は若いピアニスト(録音時23才)にもかかわらず、曲のベースはビー・バップである。ピアノはセロニアス・モンクを連想させるように、音の数を倹約して、音楽の輪郭をはっきりと表現している。それに絡むベン・ウルフのベースとシャノン・パウエルのドラムスが素晴らしい。ここでこういう風に絡んだら良いと思われるところで間違いのない音を出す。ピアノ・トリオの良さを100パーセント発揮したアルバムである。 1. ONE LAST PITCH : 親しみやすいテーマのピアノ・ソロで始まる。基本ビー・バップの流れを継いだ曲想である。途中から入ってくるベン・ウルフのベースが力強い。 2. HUDSON BOMMER : 音の数を倹約したピアノ、それに絡むドラムス、ベースが絶妙である。 3. LONELY SIDE : 本曲はブルースである。ベン・ウルフのベースのトーンがすばらしい。ピアノによる悲劇的なテーマをベースがしっかりと支えながら進んでいく。 4. MR.SPILL : 軽快なテーマでピアノを弾いていく。それを追うベースのフォー・ビートの歩みが胸に心地よい。 5. LOFTY’S ROACH SOUFFLE :「ドドン」という印象的なバス・ドラムの音から始まる。本アルバムのタイトル曲である。「ロフティのゴキブリ・スフレ」とはなんのことか。もともとジャズのタイトルというのは、よくわからないものが多い。「ロード・タイム・シャッフル」とか「ジタバッグ・ワルツ」とか・・・。ピアノとドラムスが掛け合う軽快な曲である。 6. MARY RUTH : 親しみやすいメロディをハリー・コニックJrのピアノ・ソロが流れるように進んでいく。映画音楽のテーマとしても使えるのではないか。 7. HARRONYMOUS : 少ない音の数で軽快に演奏された曲。セロニアス・モンクの曲を連想させる。ベースのフォー・ビートが心強い。 8. ONE LAST PITCH(TAKE TWO) : 1の曲の別テイク作品。ドラムスのハイ・ハットが効いている。 9. COLOMBY DAY : ビー・バップの伝統を受け継いだ曲と演奏である。ピアノとベースのやりとりがしゃれている。 10. LITTLE DANCING GIRL : ほとんどピアノ・ソロで演奏された内省的な曲である。バックで地味に支えているベースが良い。 11. BAYOU MAHARAJAH : ラグタイムのような曲想の音楽をベース、ドラムスとともに楽しげに演奏している。聴いているこちらも楽しくなる。 1990年 4月4,5,22日 New York City RCA Studio B にて録音。 (2020.4.3) |
---ランバート、ヘンドリックス&ロス--- | |||||
HIGH FLYING with L,H&R |
針を落とした瞬間、マンハッタン・トランスファーとかシュープリームスのような普通のコーラス・グループとは違うな、と思った。 和音を合わせて一つの音楽を作り上げていくのではなく、それぞれがかってに歌っているように聴こえる。オペラとかミュージカルでそれぞれの役柄の人が同時に歌うように。 メンバーはマサチューセッツ州ボストン生まれの白人デイブ・ランバート、オハイオ州ニューアーク生まれの黒人ジョン・ヘンドリックス、そしてイギリス生まれの女性アニー・ロス。一聴、歌がバラバラに聴こえるように、人種や生まれもバラエティに富んでいる。 アルバムはスローなバラード「WITH MALICE TOWARD NONE」から、超高速スキャット「COOKIN' AT THE CONTINENTAL」に至るまでバラエティに富んでいる。「ABCDEFG」と歌う子供の数え歌をアレンジした「THE NEW ABC」のようにしゃれた演出があれば、「HALLOWEEN SPOOKS」のようなコミック・ソングのようなものもある。 ランディ・ウエストン作曲による「HI-FLY」は本アルバムのタイトルにもなっている。 一聴バラバラで下手に聴こえるが、何度聴いても飽きないばかりか新しい発見がある。LAMBERT, HENDRICKS & ROSSは貴重なコーラス・グループである。 グループが結成されたのは1957年、アニー・ロスが病気で引退するまで5年間という短い活動期間であった。本アルバムは彼らの最後のアルバムとなった。
1961年3月13日 ニューヨークで録音。 (2020.3.4) |
---宮沢 昭--- | |||
いわな |
1969年、テナーサックス奏者宮沢昭が42才の時の作品である。サイドメンとして当時20代後半の富樫雅彦がドラマーとして参加している。録音の半年後、富樫は不慮の事故によりドラマーとしての生命を絶たれる。「いわな」の冒頭富樫の流れるようなドラムソロを聴くことができる。 「いわな」で宮沢昭のテナーサックスはクリアで淀みがない。宮沢のテナーサックスは山奥の沢に住む「いわな」が山椒魚と対話するように荒川康男のベースと対話する。佐藤允彦のピアノと対話する。バックに回った時の富樫のドラムスもみごとなスピード感でスイングしている。 解説によると「いわな」「河ます」「あゆ」「虹ます」の名称は釣り好きの宮沢が勝手につけた題名で曲の主題とは関係がないらしい。いずれも当時の最良の録音状態で最良の日本のジャズの演奏を聴くことができる。もちろん過去、現在、国内、国外を通じてこのメンバーによるジャズ演奏は最強である。 メンバー:宮沢昭(ts , per)、佐藤允彦(p , per)、荒川康男(b , per)、富樫雅彦(ds , per)、瀬上養之助(per)。
1969年6月30〜7月14日 東京 AZABU AOI STUDIOにて録音。 (2020.2.17) |
---アート・ランディ--- | |||
RED LANTA |
アート・ランディ(pf)とヤン・ガルバレク(fl.s-sax,b-sax)のデュオ・アルバムである。 本アルバムは1973年、ドイツのECMレコードによってノルウェー・オスロのスタジオで録音された。アート・ランディの初アルバムである。透明なピアノの音は彼の生地ニューヨークより北欧の澄んだ空気の中で録音するのがふさわしい。オスロは共演者ヤン・ガルバレクの生地である。両者とも1947年生まれで現在72才。録音時は26才であった。 本アルバムに収められた音楽はジャズというよりも現代音楽に近い。ランディのピアノはクラシックのようだし、ガルバレクのフルートは邦楽の尺八を連想させる。心を浮き立たせるために聴くには適さない。心を沈静し、その上澄みを掬い取って確認するような作業に向いている。夏に聴くよりも、今にも雪が降りてきそうな灰色の雲が空に敷き詰められているような冬の日に聴くのに向いている。 ヤン・ガルバレクは現在も現役で活動している。アート・ランディの消息はわからない。
1973年11月19〜20日 OSLOのARNE BENDIKSEN STUDIOにて録音。 (2020.1.16) |