ジョニー・グリフィン / クリフォード・ブラウン / アート・テイタム / アート・ブレイキー / チャーリー・パーカー / 渡辺貞夫 / デューク・エリントン & ジョン・コルトレーン / 北村英治 / キース・ジャレット / ルー・タバキン / チャールズ・ミンガス / アート・ブレイキー / トニー・ベネット & ビル・エヴァンス |
---クリフォード・ブラウン--- | |||
CLIFFORD BROWN
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クリフォード・ブラウンは1956年6月26日、本アルバムのピアニスト、リッチー・パウエルと共に雨の降る夜、車で移動中、事故で亡くなった。その時パウエルは24才、ブラウンは25才であった。 ジャズ奏者としてのスタートしたのは1952年、チャーリー・パーカーの紹介でアート・ブレイキー楽団に入った頃である。彼のジャズ・トランペッターとしての活動期間は5年間であった。この5年間で数々の録音を行い、発表したアルバムはビッグバンドとの共演、ストリングス楽団との共演、女性ヴォーカルとの共演等バラエティに富んでいる。 6才年上のドラム奏者マックス・ローチとは相性が良かったらしく、ブラウン-ローチ五重奏団による演奏も数多く記録されている。彼が亡くなった年に録音された本アルバム「アット・ベイズン・ストリート」はブラウン-ローチ五重奏団の名盤=モダン・ジャズの名盤として知られている。これ一枚聴けば誰でもモダン・ジャズの楽しさを味わうことができる、と確信している。 1面には「恋とはどんなものでしょう」「慕情」「四月の思い出」のスタンダード曲とブラウン作曲の「JUNIOR'S ARRIVAL」がはいっている。いずれもお馴染みの曲だがクリフォード・ブラウンのハッとするような鋭い、そして温かみのあるトランペットの音色が楽しめる。 2面の「POWELL'S PRANCES」「TIME」「GERTRUDE'S BOUNCE」はリッチー・パウエル作曲、「THE SCENE IS CLEAN」「FLOSSIE LOU」はタッド・ダメロン作曲による。 本五重奏団のメンバーは、クリフォード・ブラウン=トランペット、ソニー・ロリンズ=テナー・サックス、リッチー・パウエル=ピアノ、ジョージ・モロー=ベース、マックス・ローチ=ドラムスである。
1956年1月4日〜2月17日 ニューヨークで録音。 (2019.11.2) |
---アート・テイタム--- | |||
The Tatum Solo MasterpiecesVol.1
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アート・テイタムはモダンジャズ初期の盲目のピアニストである。彼が出演していたナイトクラブにたまたま来ていたホロヴィッツや彼の義父で指揮者のトスカニーニがその演奏テクニックに驚いた。また厨房で皿洗いをしていた若いチャーリー・パーカーがテイタムの演奏が始まると、厨房の入り口でじっと演奏を聴き入っていた。という話が伝わっている。 A面の曲は「ムーングロウ」「ラヴ・フォー・セール」「ボディ・アンド・ソウル」はいずれもスタンダード曲。西洋小唄を聴くように耳に心地よい。 B面の「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」はさらっと弾いているのでわかりにくいが超高速なアドリブが効いている。 「ジョーンズ嬢に会ったかい」「スティ・アズ・スウィート・アズ・ユー・アー」「マイ・ラスト・アフェアー」もどこかで聴いたことがある曲。 「アート・テイタム・ソロ Vol.1」は心地よいだけでなくソロ・ピアノの深い表現力を感じさせるアルバムである。
1953年12月28日〜1955年1月19日 ロスにて録音。 (2019.10.11) |
---アート・ブレイキー--- | |||
MOANIN'
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ブルーノート・レコードの名盤である。モダンジャズの一番有名な曲がアルバムのタイトル曲「モーニン」ではないだろうか。意味は「愚痴る」「ブツブツ言う」「つぶやく」「うめく」などである。 1面はじめの曲は「MOANIN'」。ピアノは作曲者のボビー・ティモンズ。ピアノソロで有名なテーマを提示した後、若武者リー・モーガンのトランペットが炸裂する。平凡な日常を切り裂くような鋭く激しいトランペットである。後に続くは名手ベニー・ゴルソンのテナーサックスであるが、もの凄いトランペットの後だけにゆるく感じる。ピアノのアドリブが続いた後、ジミー・メリットのベースソロになる。アート・プレイキーのドラムスはつなぎに徹し、バランスを取っている。リーダーのアート・ブレイキーは派手に見えるが実は地味に全体を支える役が得意である。10分間の演奏があっという間に終わってしまう感じである。 「ARE YOU REAL」はベニー・ゴルソンの曲。リー・モーガンのどこまでも翔んでいくようなトランペットが凄い。 「ALOMG CAME BETTY」もベニー・ゴルソンの曲。自身のテナーサックスソロ、リー・モーガンのトランペットソロが良い。 2面はベニー・ゴルソン作曲の「THE DRUM THUNDER SUITE」から始まる。「ドラム・サンダー」というにふさわしくアート・ブレイキーの迫力のあるドラムソロから始まる。 トランペット、ピアノ、テナーサックスのソロ演奏が続く。つなぎに入るブレイキーのドラムスが効果的で胸がワクワクする。 「BLUES MARCH」もベニー・ゴルソンの曲。ブレイキーのマーチ風のドラムスに続いてリー・モーガンのトランペットとゴルソンのテナーサックスが歌いまくる。 「COME RAIN OR COME SHINE」はハロルド・アーレンの曲、1946年のミュージカル「セントルイス・ウーマン」の挿入歌。メンバーのソロ演奏によるアドリブの受け渡しが心地よい。なかでもこのとき20才のリー・モーガンの演奏が際立っている。
1958年10月30日 録音。 (2019.9.16) |
---チャーリー・パーカー--- | |||
NOW'S THE TIME
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A面のメンバーはピアノ:ハンク・ジョーンズ、ベース:テディ・コティック、ドラムス:マックス・ローチ。このリズム・セクションをバックにチャーリー・パーカーがアルト・サックスを吹きまくる。 「THE SONG IS YOU」はジェローム・カーンの名曲。パーカーのアドリブは原曲を離れて際限もなく翔んでいく。ハンク・ジョーンズのピアノがなかなかいい。 「LAIRD BAIRD」はパーカーの曲。テディ・コティックのベースとマックス・ローチのドラムスが変化を与えて効果的である。 「KIM」もパーカーの曲。KIMは妻チャンの連れ子の名前。ピアノのハンク・ジョーンズが長めにソロをとっている。 「COSMIC RAYS」もパーカーの曲。リズム・セクションの3人のソロがそれぞれ持ち味を出している。 B面はリズム・セクションがピアノ:アル・ヘイグ、ベース:パーシー・ヒース、ドラムス:マックス・ローチに変わっている。 「CHI CHI」は3テイク収められている。パーカーのアルト・サックスはびっくりするほど伸びがあって音色に濁りがない。マックス・ローチの家の食卓でパーカーが即興で書いた曲だという。 「I REMEMBER YOU」はヴィクター・シャーチンガーの曲。パーカーの深みのあるアルト・サックスが歌いまくっている。 「NOW'S THE TIME」はパーカーが即興で書いた曲。マックス・ローチのドラム・ソロが入っている。 「CONFIRMATION」もパーカーの曲。パーカーのアドリブが素晴らしい。キレのあるマックス・ローチのドラムスが効いている。 モダン・ジャズの基礎を作り上げたチャーリー・パーカーに年に一度は回帰することも必要である。思いもよらなかった発見がある。
1952年12月(SIDE・A)、1953年8月(SIDE・B) ニューヨークで録音。 (2019.8.15) |
---渡辺貞夫--- | |||
THE GIRL FROM IPANEMA
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ボサノバの草分け的存在として知られるブラジルの伝説的歌手・ギター奏者のジョアン・ジルベルト(Joao Gilberto)が死去した。88歳だった。息子のジョアン・マルセロ(Joao Marcelo)さんが6日、明らかにした。 ジョアン・ジルベルト死去のニュースが世界中に配信されたのは7月6日土曜日の朝だった。 ブラジルの代表的な音楽として知られているボサノバはジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンが作ったものだった。その代表的な曲「イパネマの娘」はジョアン・ジルベルトの最初の妻アストラッド・ジルベルトが歌って世界中でヒットした。 1962年にアメリカボストン市のバークリー音楽院に留学した渡辺貞夫がこの音楽を聴いて惚れ込み、1965年に帰国するとメンバーを集めてボサノバを演奏した。渡辺貞夫が留学したおかげで当時の日本人はいち早く本場のボサノバを聴くことができた。これはそんな時代に録音されたアルバムである。 演奏者はいずれも当時の一流のジャズマンたちである。
本アルバムの聴きどころは渡辺貞夫のフルートの演奏と冨樫雅彦のドラムスの演奏である。 渡辺貞夫は本来アルトサックスの奏者であるがフルートも吹く。伸びがあって透明な音色のフルートの音色はボサノバというジャンルによく合っている。「イパネマの娘」では口笛とスキャットでも演奏している。 1970年の事故により下半身が使えなくなった冨樫雅彦のドラムスの演奏は貴重である。 菊地雅章の透明なピアノの音も聴き逃せない。 ジョアン・ジルベルトは晩年は必ずしも幸せとは言えなかったらしいが、ボサノバという音楽は世界中のひとびとに永遠に聴かれ続ける。
1967年6月 録音。 (2019.7.10) |
---デューク・エリントン & ジョン・コルトレーン--- | |||
DUKE ELLINGTON & JOHN COLTRANE
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1面の1曲目は「イン・ア・センチメンタル・ムード」。デューク・エリントン作曲のスタンダード・ナンバーである。ピアノはエリントン、テナーサキソフォンはコルトレーン。ドラムス、エルヴィン・ジョーンズ、ベース、アーロン・ベル。エリントンのさみだれのようなピアノの音が印象的である。 1面の2曲目「テイク・ザ・コルトレーン」もエリントン作曲である。自身の曲「テイク・ジ・A・トレーン」をもじったシャレの効いた題名である。ベースがジミー・ギャリソンに変わっている。 1面の3曲目「ビッグ・ニック」はコルトレーン作曲。フラフラ歩いているようなテーマをコルトレーンが吹く。ピアノ、ドラムス、ベースが続くに従ってコルトレーンのテナーサックスが自由度を増していく。 1面の4曲目「スティーヴィー」はエリントンが甥っ子のために作曲した曲。ピアノがテーマを示しテナーサックスがそれに続く。ドラムスがサム・ウッドヤードに、ベースがアーロン・ベルに変わる。4ビートの気持ちのいい曲。 2面の1曲目「マイ・リトル・ブラウン・ブック」はビリー・ストレイホーン作曲によるスローバラード。コルトレーンのスローで心のこもったテナーサックスがテーマを吹き、自然にアドリブ演奏に進む。サム・ウッドヤードのブラシワークがそれを支える。最後にエリントンのメリハリの効いたピアノ演奏で締めとなる。 2面の2曲目「アンジェリーカ」はエリントンの曲。エリントンの軽やかなピアノ演奏とエルヴィンのドラムスの掛け合いがユーモラスに響く。そこにコルトレーンの珍しく軽やかなアルトサックスの演奏が入ってくる。体が踊り出すようなスウィンギーな演奏である。 2面の3曲目「ザ・フィーリング・オブ・ジャズ」はエリントンの曲。4ビートの典型的なモダンジャズ。コルトレーンがテナーサックスを気持ちよさそうに吹く。リズムセクションはドラムスがサム・ウッドヤード、ベースがアーロン・ベル。 決して派手なフレーズを弾くわけではないがエリントンのピアノ演奏は要所要所で輝く。ビッグバンドのリーダーではなく、ピアニストとしてのデューク・エリントンを堪能するアルバムである。
1962年9月26日 録音。 (2019.7.4) |
---北村英治--- | |||
TEDDY WILSON with EIJI
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1面の1曲目はおなじみの「アイ・ガット・リズム」。北村英治の軽快なクラリネットの演奏が心地よい。アップテンポのアドリブが延々と続く。つられたようにテディ・ウィルソンの超アップテンポのピアノが続く。 1面の2曲目「ささやき」は1曲目を全力疾走とすればジョギング程度のスピードである。北村のクラリネットがテーマを吹き、続いてピアノ、ドラムス、ベースが追従する。 1面の3曲目「ライム・ハウス・プルース」もまた北村のクラリネットが全力疾走する。クラリネットの音は軽くてアップテンポの曲に合っている。特に北村英治のクラリネットはスイング感が並ではない。いつの間にか聴いているこちらの体が動いている。 1面の4曲目「身も心も」と5曲目「君ほほえめば」は聴けば誰でも知っているメロディである。スイング・ジャズのというよりジャンルを超越したスタンダードナンバーであろう。 2面の1曲目「いつかどこかで」は北村のクラリネットによるスローバラードの演奏からスタートする。テディ・ウィルソンのピアノが続き二人のやりとりになる。 2面の2曲目「スイート・ジョージア・ブラウン」では一転、速いリズムによるクラリネットとピアノのやりとりになる。須永ひろしの軽快なドラムスの合いの手が効果的である。 2面の3曲目「思い出のたね」では北村はテナーサキソフォンを演奏する。しっとりしたスローバラードにはテナーサックスの音が合う。池沢行生のベース、テディのピアノがゆったりと追従する。 2面の4曲目は「ハニー・サックル・ローズ」。北村のクラリネットはノリノリ、まるで空中遊泳しているかのようである。観客の歓声もすごい。テディ・ウィルソンのピアノもアドリブを混ぜながら軽快に飛ばす。 本アルバムは北村英治が御大テディ・ウィルソンを日本に招いて演奏したものである。内容からしても北村英治のリーダーアルバムといって良い。このとき51才の北村は長い全盛期の中でも最も脂の乗っていた時期ではないかと思う。
1980年 銀座JUNKにて録音。 (2019.6.4) |
---キース・ジャレット--- | |||
SHADES |
1面の1曲目なんだかゴチャゴチャした感じで始まったのは「SHADES OF JAZZ」。2回目に聴くとゴチャゴチャしていると思えたのはテナーサキソフォンのデューイ・レッドマンがテーマを吹いていただけ、ということがわかる。やがてキース・ジャレットのピアノがからんで曲想が明確に示される。弾けたようなおどけたような「ケルン・コンサート」のキース・ジャレットとは180度逆にしたような印象である。 1面の2曲目「SOUTHERN SMILES」は1曲目の「SHADES OF JAZZ」から間をおかずに入るため同じような曲想のせいでどこから切り替わったのかわかりにくい。ベースのチャーリー・ヘイデンが効いている。 2面の1曲目「ROSE PETALS」(バラの花びら)は一転して内省的な曲想である。テナーサキソフォンによるバラードから始まる。キースの内省的なピアノが入り込み、アドリブを繰り広げながらソロプレイへと進んでいく。チャーリー・ヘイデンのベースが常に低音部を支えている。 2面の2曲目「DIATRIBE」(罵倒)はテナーサキソフォンのつぶやきから入る。間髪を入れずキースのアドリブの効いたピアノソロ、そしてからみつくようにチャーリー・ヘイデンのドライブの効いたベースが入り込んでくる。デューイ・レッドマンのテナーサキソフォンとポール・モティアンのドラムスがうねるように入ってきてアドリブ合戦となる。全員でテーマを演奏して快調にエンディングを迎える。 カルテットによるインプロビゼーションとキース・ジャレットのソロピアノの両方が味わえるアルバムである。
1975年 Generation Sound Studios, New York Cityにて録音。 (2019.5.6) |
---ルー・タバキン--- | |||
RITES OF PAN |
1面の1曲目「AUTUMN SEA」は宮城道雄の「春の海」を録音するつもりだったが許可が降りず、穐吉敏子が作曲したものである。「春の海」ならぬ「秋の海」。秋吉の秋にもかけている。ルー・タバキンのフルートがまるで尺八の音色のように聞こえる。ピアノ・ソロの時の穐吉敏子のピアノの音色が素晴らしい。 1面の2曲目「BE - BOP」はディジー・ガレスピーの名曲。ベースのジョン・ハードとフルートのルー・タバキンのやり取りが延々と続く。ジャズならではのアドリブに寄るコラボレーションの妙である。 1面の3曲目「JITTERBUG WALTZ」はファッツ・ワーラーの名曲。「ジルバ・ワルツ」というなんだかよくわからない題名だが曲は美しい。ルー・タバキンのフルートが美しいとしか言いようがない。 2面の1曲目「RITES OF PAN」はストラビンスキーの「春の祭典」(The rite of spring)からイメージを得てルー・タバキンとシェリー・マンが共作したものである。「牧羊神の祭典」。ドラムスのシェリー・マンとフルートのルー・タバキンのデュオ。ドラムスの音が原始の熱狂的な祭りのイメージを形づくる。フルートが舞台の真ん中で踊り狂う。 2面の2曲目「SPEAK LOW」はクルト・ワイルの曲。よく知られたメロディをフルートが示した後、ボブ・ダハティのベースが入り込んでくる。ベースをバックにフルートのアドリブが延々と続く。時々ピアノの音が掛け声のように入る。いつの間にかドラムスが調子をとっている。 2面の3曲目「NIGHT NYMPH」はルー・タバキンのアルト・フルートによるソロ曲。 2面の4曲目「ELUSIVE DREAM」は穐吉敏子の曲。彼女のビッグ・バンドではおなじみの曲である。ピアノ、ベース、ドラムスのリズムセクション プラス フルートというカルテットの演奏。フルートの伸びやかな音が印象に残る。
1977年〜1978年 Hollywood, Californiaにて録音。 (2019.4.4) |
---チャールズ・ミンガス--- | |||
CHARLES MINGUS PRESENTS |
チャールズ・ミンガス自身のMCから始まる。かなり長いこと話しているがよくわからない。そのうちにミュージシャンの紹介になる。これは聞き取れる。アルトサキソフォンとバスクラリネットのエリック・ドルフィー。トランペットはテッド・カーソン。ドラムスはダニー・リッチモンド。ベースはチャールズ・ミンガス。 1面の1曲目「FORKS FORMS, NO.1」はミンガスのベース・ソロから始まる。スタジオ録音ということで音の状態は良い。力強いベースの音が迫ってくる。いつの間にかエリック・ドルフィのアルトサックスとテッド・カーソンのトランペットが入り込んでくる。3種の楽器が会話しているような状態が暫く続く。いつの間にかダニー・リッチモンドのドラムスも加わって4種の楽器による会話が続く。ドルフィーがアルトサックスからバスクラリネットに持ち替えると一気に緊張感と不安感が高まる。 1面の2曲目「ORIGINAL FAUBUS FABLES」もミンガスのMCから始まる。MCから引き続きミンガスの歌ともつぶやきともしれないボーカルが延々と続く。「フォーバス知事の寓話」という曲は黒人差別の時代、アーカンソー州知事オーヴァル・フォーバスが州兵を学校に送って黒人学生の登校を阻止した有名な事件を曲にしたものである。ミンガスはかなり過激な歌詞を歌っているはずだが残念ながらわからない。録音そのものは良いので耳のいい人には聞き取れるはずである。 徹底的に我も我もと入り込んでくる4種の楽器。1957年のリトルロック・セントラル高校に軍隊が入り込んで騒乱状態になったように楽器と歌声が吠える。 2面の1曲目「WHAT LOVE」は力強いベースを基軸にアルトサックスとトランペットの不安な音が続く。曲の中心部でベースとバスクラリネットの対話が延々と続く。ミンガスとドルフィーは相性が良かったんだな、と思わせる。本アルバムで一番長い15分20秒の曲である。 2面の2曲目「ALL THE THINGS YOU COULD BE BY NOW IF SIGMUND FREUD'S WIFE WAS YOUR MOTHER」というバカに長い題名は「シグムンド・フロイトの妻があなたの母だったら」という何だかよくわからない意味である。MCのミンガスも「特に意味はないが」と話しているようである。曲が始まってすぐ軽快なトランペット・ソロが続く。アップテンポの曲である。 録音状態が素晴らしく良く、ミンガスのMCもそれぞれの楽器の音もメンバーの掛け声も明確に聴ける。
1960年 New York, Nola Penthouse Sound Studioにて録音。 (2019.3.7) |
---アート・ブレイキー--- | |||
IN THIS KORNER |
サン・フランシスコのキーストン・コーナーというジャズクラブでのライブ録音である。 ライブ録音なので演奏の終わりには観客の拍手が聞こえる。ブレイキー以外はあまり有名でないメンバーである。楽器はブレイキーのドラムスとトランペット、アルトサキソフォン、テナーサキソフォン、ピアノ、ベースという構成。 1面の1曲目「PAMELA」はアップテンポの曲で9分30秒、ライブでは普通の長さである。ブレイキーのドラムスから始まりトランペット、アルトサキソフォン、テナーサキソフォン、ピアノの順番でソロを取っていく。ブレイキーのバッキングが的確でスインギーな演奏だ。演奏後の拍手と口笛がノリノリの様子を表している。 1面の2曲目「UNLIMITED」はアルトサキソフォン奏者、ロバート・ワトソンの曲。はじめからアルトサックスによるアドリブがテンポよく演奏される。トランペット、ピアノと続き全員のテーマ演奏で終わる。 1面の3曲目「IN THIS KORNER」もロバート・ワトソンの曲。ミュートを装着したトランペットの演奏から始まる。バレリー・ポノマレフの快調なトランペット演奏から引き継いだテナーサキソフォンもまた快調にアドリブ演奏を繰り広げる。ブレイキーのドラムスは地味だが的確にペースを支える。 2面の1曲目「THE SONG IS YOU」はブレイキーのナイアガラ・ロールから始まる。オスカー・ハマーシュタインとジェローム・カーンのスタンダード・ナンバーをアップテンポに繰り広げる。ロバート・ワトソンの超高速アルトサックスが頭の中を効果的にマッサージしてくれる。引き継いだジェイムズ・ウイリアムズのピアノ演奏も超高速。軽快なドラムスが間をつなぎながらトランペット、アルトサックスへと引き継ぎその勢いのまま終わりへなだれ込む。観客の拍手が熱を帯びる。 2面の2曲目「DARK SIDE, LIGHT SIDE」はジェイムズ・ウイリアムズのピアノ演奏から始まる。ビー・バップ調のフォー・ビートが心臓の動きを加勢する。続く分厚い音のテナーサックスはデビッド・シュニッター。10分7秒の演奏は本アルバムで一番長い。メンバーそれぞれがたっぷりとアドリブソロを取る。 2面の3曲目「BLUES FOR YOU」はトランペット演奏、バレリー・ポノマレフの曲。テナーサックスの心地よいフォー・ビートが頭と心臓を包み込む。バックのピアノとベースのリズムセクションも効果的にビートを刻む。クリアなトランペットの音、軽快なブレイキーのドラムス、観客の掛け声も絶好調だ。ライブ演奏は乗ったもの勝ちだ。
1978年 San FranciscoのKeystone Kornerにて録音。 (2019.2.19) |
---トニー・ベネット & ビル・エヴァンス--- | |||
The Tony Bennett Bill Evans Album |
トニー・ベネットとビル・エヴァンスのデュオ・アルバムである。 1975年の録音ということで録音状態は良い。トニー・ベネットののびのある歌声とビル・エヴァンスのクリアでクールなピアノの音がまるで目の前で演奏されているかのようだ。 1面はどちらかというと玄人好みの地味な曲、2面はジャズファンなら大抵の人が知っている曲が演奏されている。 ボーカルとピアノの組み合わせだとボーカル主体でピアノが伴奏ということになるのが一般的だが、本アルバムではボーカルとピアノは対等である。"Waltz for Debby" や "Days of Wine and Roses" ではむしろピアノの方が主体的に演奏されている。 トニー・ベネットの歌声を聴きたい人、ビル・エヴァンスのピアノの演奏を聴きたい人それぞれが平等に楽しめるアルバムである。
1975年6月10〜13日 録音。 (2019.1.11) |