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ビル・エヴァンス / スウィングル・シンガーズ / アーサー・ブライス / ハービー・ハンコック / 渡辺貞夫 / 今田勝 / マッコイ・タイナー / マイルス・デイビス-3 / オスカー・ピーターソン / マイルス・デイビス-2 / マイルス・デイビス


---ビル・エヴァンス---


ビル・エヴァンス「アンダーカレント」

UNDERCURRENT


ビル・エヴァンス「アンダーカレント」

ビル・エヴァンスとジム・ホールのデュオ・アルバムである。ピアノとギターという似た音色の楽器によるデュオだから賑やかな音楽にはならない。ピアノがビル・エヴァンスということもあってひたすら内省的な音楽になっている。

1面-1、「My Funny Valentine」はジャズではおなじみのスタンダードナンバーである。アップテンポなピアノとギターの掛け合いは楽しい。スウィング感あふれる演奏になっている。

1面-2、「I Hear A Rhpsody」と1面-3、「Dream Gypsy」はこの2人ならではの内省的な作品。ピアノにギターが、ギターにピアノが自然に絡み付き合いながら進行する。

2面-1、「Romain」と2面-3、「Darn That Dream」もピアノとギターが寄り添いながら進んで行く。

2面-2、「Skating In Central Park」は映画「拳銃の報酬」のためにジョン・ルイスが作曲した作品。西洋小唄のような調子のいい楽しい曲である。ピアノとギターが公園で遊んでいるような印象である。

1959年5月録音。

(2017.12.2)

---スウィングル・シンガーズ---


スウィングル・シンガーズ「PLACE VENDOME」

PLACE VENDOME


スウィングル・シンガーズ「PLACE VENDOME裏面」

「The Swingle Singers perform with The Modern Jazz Quartet」と題されたアルバムである。題名「PLACE VENDOME」はアルバム裏面に描かれた地図を見るとパリのある広場に付けられた名前のようである。

1面-1、「Little David's Fugue」 リトル・デヴィッドのフーガはジョン・ルイス作曲だがバッハのフーガ風に作ってある。バッハの作品と言っても通じてしまうくらいバッハ風。ミルト・ジャクソンのヴァイブソロになると急にスウィングし始める。

1面-2、「Air for G String」バッハのG線上のアリアはスウィングル・シンガーズの歌声とピアノのジョン・ルイスのコラボレーションが素晴らしい。バッハもジョン・ルイスの編曲には感心するのではないか。

1面-3、「Vendome」ヴァンドームもジョン・ルイスの作品。スウィングル・シンガーズのダバダバがフーガのように響く。

1面-4、「Ricercare A Six」音楽の捧げ物 第5曲 6声のリチェルカーレ。妖しげな旋律、バッハ好きにはたまらない演奏である。

2面-1、「Dido's Lament」ヘンリー・パーセルのディドのラメント。ピアノソロからはいり、ヴァイブが寄り添うように絡んでくる。そこへ低音の唸るようなコーラスが…。

2面-2、「Alexander's Fugue」アレクサンダーのフーガ、ジョン・ルイスの作品。ピアノソロが素晴らしい。ピアノの部分だけスウィングしまくっている。

2面-3、「Three Windows」スリー・ウインドーズ、ジョン・ルイスの作品。ミルト・ジャクソンのヴァイブとスウィングル・シンガーズのコーラスのシンクロがゾクゾクするほど素晴らしい。

スウィングル・シンガーズとモダン・ジャズ・カルテットの息のあったコラボレーションであった。バッハとジャズとコーラスは相性がいいと再認識させられた。1966年9月録音。

(2017.11.4)

---アーサー・ブライス---


アーサー・ブライス「ILLUSIONS」

ILLUSIONS


アーサー・ブライス「ILLUSIONS裏面」

1面-1、「Bush Baby」 切れ込んでくるエレクトリックギター、絶え間なくリズムを刻むベース、遠吠えのようなアルトサックス、紛れもなく80年代最新のロックジャズだ。

-2、「Miss Nancy」 自由自在に歌いまくるアルトサックス、時々合いの手を入れるアコースティックピアノ、縁の下で支えるベース。合間を縫うアルトサックスの音が心地よい。新しいハードバップともいうべきジャズのリズム。

-3、「Illusions」 再びロックジャズ。アルトサックスのブローに始まりギターの合いの手を挟んでアルトサックスのブロー。アーサー・ブライスのアルトサックスは絶好調だ。

2面-1、「My Son Ra」 アーサー・ブライスののびのあるアルトサックスから始まる。途中から入るピアノの音が実に鮮明でリアルだ。

-2、Carespin' With Mamie」 ピアノトリオでハードパップ調で始まる。途中から入るアーサー・ブライスのアルトサックスが歌いまくる。弦楽器がアクセントになっている。チェロか。

-3、「As of Yet」 アップテンポの曲。ハードバップ調で歌いまくるアーサー・ブライス。ピアノトリオのバッキングが心地よい。

アーサー・ブライス以外は有名な人はいないが皆実力は満点。80年代の最新のジャズはこれだぜ、という気概に満ちた演奏である。

(2017.9.25)

---ハービー・ハンコック---


ハービー・ハンコック「V.S.O.P.」

V.S.O.P.


ハービー・ハンコック「V.S.O.P.裏面」

V.S.O.P.はVery Special One Time Performanceの略である。60年代以降のハービー・ハンコックの足跡を振り返るという目的のコンサートである。会場はニュー・ヨークのシティ・センター・ホール。日時は1976年6月29日。

アルバムは2枚組で1枚目は60年代、2枚目は70年代という構成になっている。

1枚目のメンバーはそっくりマイルス・デイヴィス・クインテット。ただしトランペットはマイルスに変わってフレディー・ハバードがやっている。マイルスは過去を振り返る音楽はやらないので出てこない。

曲目は「Maiden Voyage」「Nefertiti」「Eye of the Hurricane」とマイルスやハービー・ハンコックのグループではおなじみのものである。「Nefertiti」はマイルスに同名のアルバムがある。その時のメンバーは本アルバムのメンバーである。ハービー・ハンコック(pf)、ウェイン・ショーター(ts, ss)、フレディー・ハバード(tp)、ロン・カーター(b)、トニー・ウイリアムズ(ds)。

この1枚目のアルバムは素晴らしい。マイルスとやっていた時よりさらにスピードアップし、コンビネーションも完璧だ。お互いの手の内を完全に把握しているもの同士のセッションだ。マイルスによって進化したジャズはここで頂点に達したと言ってもいい。

2枚目は70年代のメンバーである。曲もガラリと変わって現代のジャズ、ロック色の強いジャズになっている。リズムはエイトビート、ギターが重要なパートを占めている。この形式もマイルスが作り上げたものだ。進化し続けるマイルス。

多くのジャズファンと同様、70年代以降のロックに舳先を向けたマイルスにはついていけない。自分にとってジャズは60年代で終わった、と再認識させてくれるアルバムである。

(2017.8.14)

---渡辺貞夫---


渡辺貞夫「ROUND TRIP」

ROUND TRIP


渡辺貞夫「ROUND TRIP裏面」

マイルス・デイヴィスと共演したばかりのミュージシャンを集めて渡辺貞夫が1970年に録音したアルバムである。

1933年生まれの渡辺はこの時37才。新しいことにはなんでも挑戦する気概に満ちたアルバムである。

1面1曲目の「ROUND TRIP」はタイトル曲である。今までのジャズから一歩進めてフリージャズに挑戦している。ここでソプラニーノ・サックスを吹きまくる渡辺はコルトレーンのようである。リズムセクションの3人、ピアノのチック・コリア、ベースのミロスラフ・ビトウス、ドラムスのジャック・デジョネットはどんなリズムでもOKだ。ミロスラフの分厚いベースが効いている。

2面1曲目はどこかで聴いたことがある曲「PASTORAL」。渡辺貞夫の作った有名な曲だ。親しみやすいフレーズを聴くと田んぼのあぜ道を散歩している時に心地よい風が吹いてくるかのように気持ちが落ち着く。渡辺のソプラニーノ・サックスが風のように流れる。ミロスラフの弓弾きのベースが田んぼで鳴く蛙の声のようだ。チック・コリアの力強いアコースティックピアノの音があぜ道を歩く大股の足のようだ。

2面2曲目の「SAO PAULO」は渡辺のフルートから始まる。親しみやすい曲だ。途中からサンバのリズムに変わる。いつの間にか体が動いてしまう。

壮年の挑戦的な渡辺貞夫が味わえる一枚である。

(2017.7.30)

---今田勝---


今田勝「REMEMBER OF LOVE」

REMEMBER OF LOVE


今田勝「REMEMBER OF LOVE裏面」

スリーブラインドマイスレコードの名盤である。なんとスリーブラインドマイスレコード社は2014年12月につぶれていた。創業が1970年ということだからほぼ自分が社会に出てから定年年代になるまで活動していたことになる。団塊の世代とともに生き団塊の世代とともに消えてゆくレコード会社。

今田勝は中本マリ、三木敏悟、高橋達也と東京ユニオンらとともにスリーブラインドマイス社のスター的存在であった。ネットで調べてみたら85才の現在も現役である。

1面1曲目の「マキ」はソロピアノである。今田独特の澄んだピアノの音が印象的な曲である。2曲目はタイトル曲の「リメンバー・オブ・ラヴ」。ジャケットの海の写真を連想するような堂々と流れるような曲だ。パーカッションとベースの音が波を表現するように聞こえる。

2面1曲目はベースソロから始まる。ここでは今田はエレクトリック・ピアノを弾く。曲名は「シー・ウィーズ」、海藻の意味か。やはり海に関係がある。パーカッション・ソロの軽みが耳に心地よい。。

2面2曲目の「リトル・ステップ」は今村祐司のパーカッション・ソロから始まる。今田のシンセサイザーによる印象的なメロディが続く。古野光昭のベースが表に出たり裏に引っ込んだりしながらリズムを支える。今田はエレクトリック・ピアノに切り替えてメロディを弾いていく。永久に繰り返す海の波のようなバラードが続く。

「ラヴ」というより「海」というイメージのアルバムである。

(2017.7.1)

---マッコイ・タイナー---


マッコイ・タイナー「inception」

inception



マッコイ・タイナーの初リーダーアルバムである。マッコイ23才、コルトレーンのグループでガンガン弾いているのとは対照的に軽やかでリズミカルに弾いている。これがピアノトリオだ、という演奏である。

マッコイ・タイナートリオのメンバーはArt Davis(b)、Elvin Jones(ds)、そしてMcCoy Tyner(pf)である。

1面1曲目はタイトル曲「INCEPTION」、「始まり」の意味だ。軽やかなピアノの音と軽やかで弾むようなドラムスの掛け合いが心地よい。これからジャズ界に船出する、「始まり」にふさわしい演奏である。

2曲目はスタンダードナンバーの「THERE IS NO GREATER LOVE」。親しみやすいメロディの流れを乱さないように流れるようなピアノの音に軽めのベースとドラムスが絡んでいく。

2面1曲目の「SUN SET」はスローなバラード曲。

2曲目は「EFFENDI」。マッコイのオリジナル曲、右手と左手の掛け合いが素晴らしい。思わず体が動いてしまう。ベースの軽い爪引きによる合いの手が心地よい。途中でフェイドアウトしてしまうがもっと演って欲しい。

3曲目は有名なジャズのスタンダード曲「SPEAK LOW」。途中からピアノがノリに乗ってくる。ノリが止まらない感じだ。フェイドアウトが残念である。

全6曲はピアノトリオのいいところだけを抽出したような演奏である。
マッコイはこういう演奏が生ぬるく感じだしたのだろう。まもなくコルトレーンのグループに入ってリズミカルでもメロディアスでもなくピアノを弾くようになる。

(2017.4.30)

---マイルス・デイビス-3---


マイルス・デイビス「MILES IN THE SKY」

MILES IN THE SKY


マイルス・デイビス「MILES IN THE SKY」

マイルスが黄金のリズムセクション、ハービー・ハンコック(el-p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)+ウェイン・ショーター(ts)をバックに吹きまくっている。A面2曲目「パラフェルナリア」ではジョージ・ベンソン(g)も参加している。メンバーに不足はない。このメンバーなら何をやってもうまくいくだろう。

マイルスのトランペットとトニー・ウィリアムスのドラムスのすばらしい掛け合いが聴けるのはA面1曲目の「スタッフ」である。マイルスのトランペットの音が実に美しい。合いの手を入れるトニーのドラムスが軽くていい。時々入るハービー・ハンコックのエレクトリックピアノの音が不思議なアクセントになっている。

A面2曲目の「パラフェルナリア」はジョージ・ベンソン(g)が重要なフレーズを繰り返し演奏している。
マイルスのトランペットソロがすばらしい。2年後に録音される「ビッチェズ・ブリュー」につながる音である。

B面1曲目の「ブラック・コメディ」はトニーの作品である。トニーのドラムスの音はどこから飛んでくるかわからない。予想に反したところから出てくる。軽くて鋭い。「蝶のように舞い蜂のように刺す」というモハメッド・アリに捧げられた賛辞がトニーにも当てはまる。
ここではハービー・ハンコックのエレクトリックピアノがフューチャーされている。

B面2曲目の「カントリー・サン」はマイルスのオリジナルである。トニーのドラムスとマイルスのトランペットの掛け合いが素晴らしい。

1968年、ニューヨークにて録音。

(2017.3.26)

---オスカー・ピーターソン---


オスカー・ピーターソン「MONTREUX '77」

MONTREUX '77


オスカー・ピーターソン・ジャムと銘打っているがオスカー・ピーターソンがバリバリ弾きまくるというシーンはあまりない。むしろ全体のバランスを考え、それぞれの持ち味を生かしたセクステットの演奏になっている。

デイジー・ガレスピー、クラーク・テリーのトランペット、エディ・ロックジョー・デイビスのテナーサックスをピアノトリオ、ピーターソンのピアノ、ニールス・ペデルセンのベース、ボビー・ダラムのドラムスが支えてバランスをとっている。

1面の「ALI AND FRAZIER」はピーターソンの曲。ガレスピーのトランペットがアリでピーターソンのピアノがフレイザーか。それともペデルセンの素早いベースの爪引きがアリでボビー・ダラムのバスドラがフレイザーか。入れ替わり楽器が出てきて素早い打ち合いをする。ジャズのアドリブならではのスピード感あふれる音楽だ。
「IF I WERE A BELL」はスタンダード曲。ピーターソンは実に軽やかにピアノを弾く。スウィング感あふれる演奏に思わず体が動いてしまう。クラーク・テリーのミュートをつけたトランペットが歌いまくる。

2面の「THINGS AIN'T WHAT THEY USED TO BE」はデューク・エリントンの曲。トランペット、テナーサックスの競演である。
「JUST IN TIME」はピーターソンのピアノから入って技巧的なトランペット、力強いテナーサックスへと続く。いずれもニールス・ペデルセンの力強いベースがしっかりと底を支えている。

サックス

最後まで聴くと印象に残るのはピーターソンのよく歌うピアノとペデルセンの力強いベースの爪引きの音である。

(2017.3.2)

---マイルス・デイビス-2---


マイルス・デイビス「'ROUND ABOUT MIDNIGHT」

'ROUND ABOUT MIDNIGHT


曲名を書くだけで楽しくなる。1面は「'Round Midnight」「Ah-Leu-Cha」「All of You」。2面は「Bye Bye Blackbird」「Tadd's Delight」「Dear Old Stockholm」。

メンバーはMiles Devis(tp)、John Coltrane(ts)、Red Garland(pf)、Paul Chambers(b)、"Philly Joe" Jones(ds)。

最強のメンバーによる不動の名曲の演奏である。どこから聴いてもいいし、どこを聴いてもいい。

愁いのマイルスを聴きたければ「'Round Midnight」を、はつらつとしたマイルスなら「Ah-Leu-Cha」を、楽しい演奏なら「All of You」や「Bye Bye Blackbird」を、しみじみしたければ「Dear Old Stockholm」を…。

マイルスだけではない。コルトレーンもいる。ポール・チェンバースもいる。レッド・ガーランドもいればフィリー・ジョー・ジョーンズもいる。

MP3に変換していつでも持っていたいアルバムである。

1956年5月、録音。

(2017.2.6)

---マイルス・デイビス---


マイルス・デイビス「Sketches of Spain」

Sketches of Spain


A面の「アランフェスの協奏曲」は16分を超える大作である。ホアキン・ロドリーゴが1939年に作曲したギター協奏曲のギターのパートをマイルスがトランペットで演奏している。一見クラシックの曲であるがギル・エバンスの絶妙なアレンジとマイルスのトランペットの独特の音色によって深みのある音楽になっている。

B面の3曲め「ソレア」もフラメンコ風の曲である。マイルスのトランペットが全編にわたって冴えわたり、スペインの太陽の下の音楽というよりニューヨークの夜風の音楽になっている。

映画「MILES AHEAD」の中でドン・チードル演ずるマイルスがラジオから聞こえる自分の曲に苛立ってDJに電話し、このアルバムの「ソレア」に換えさせるシーンがあった。マイルス本人もこのアルバムのトランペットソロが気に入っていたのかもしれない。

様々な表情のマイルスのトランペットの音色を楽しむには最適のアルバムである。

1959年〜1960年、ニューヨークにて録音。

(2017.1.21)

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