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山下洋輔/ ケニー・ドーハム/ ハンク・ジョーンズ/ デイブ・ブルーベック/ ポール・チェンバース/ ハービー・ハンコック/ デューク・エリントン/ バーニー・ケッセル/ シェリー・マン/ フィル・ウッズ/ ラムゼイ・ルイス/ ポール・デスモンド/ サラ・ヴォーン


---山下洋輔---


山下洋輔「YOSUKE ALONE」

YOSUKE ALONE

山下洋輔「YOSUKE ALONE」

1974年3月18日の都市センターホールでのライブ録音である。ピアノの音がびっくりするほどいい音で録音されている。

いつかジャズ祭であるピアニストの後に菊地雅章が同じピアノで演奏したことがある。ピアノは気軽に持ち運びできないからジャズ祭などでは1台のピアノを皆で使いまわすことになる。他のピアニストの後で菊地雅章が弾いたピアノの音が同じ楽器から出ている音とは思えないほど澄んだ音に聞こえて驚いたのだった。その時初めて同じ楽器が弾く人によって違う音がするのだと思った。

このアルバムで聴く山下洋輔のピアノの音は透き通っていて実にいい音に聞こえる。録音技術も優れているのだろう。

まるでこのアルバムの表紙のように青空に翻る白い洗濯物のようにすがすがしい。表紙は内容を表す。「ジャケ買い」という言葉があるほどだ。中身を聴かずに表紙の写真のみで判断して買うことをいう。ジャケットが良ければ中身も良いと断言する評論家もいる。

どの曲も繊細で着想にあふれていて聴いていてウキウキしてくる。何度も聴き返してしまう。

  • Flight from Autumn Leaves
  • Communication
  • Paraphrase
  • Closing Theme

(2015.12.17)

---ケニー・ドーハム---


ケニー・ドーハム「マタドール」

El Matador

アルトサックス奏者のポール・デスモンドをトランぺッターにしたらケニー・ドーハムになるのではないか。彼のリリカルなトランペットの音を聴くとそういう気になる。

クリフォード・ブラウンの陽性ではつらつとした音に対して内省的でつぶやくようなトランペットの音。これもまた良い。2面3曲目の「プレリュード」では思う存分ドーハムの澄んだトランペットの音を聴くことができる。

コンビを組むアルトサックスのジャッキー・マクリーンもあまり張り上げず、ドーハムと対話するように吹く。2面4曲目の「ゼア・ゴーズ・マイ・ハート」では2人で楽しげに会話しているようだ。

タイトル曲の1面1曲目の「エル・マタドール」、2面1曲目の「スマイル」もマクリーンとドーハムの掛け合いが楽しい曲だ。

  • ケニー・ドーハム(tp)
  • ジャッキー・マクリーン(as)
  • ボビー・ティモンズ(pf)
  • テディ・スミス(b)
  • J.C.モーゼス(ds)

(2015.11.7)

---ハンク・ジョーンズ---


The Great Jazz Trio 「At The Village Vanguard Vol.2」

At The Village Vanguard Vol.2

グレイト・ジャズ・トリオというのはたぶん日本人のプロデューサーによる命名であろう。だがこのトリオはまさしくグレイトなジャズ・トリオである。1面1曲目のコンファーメーションの最初のピアノの音を聴いただけでわかる。

ピアノ、ベース、ドラムスというジャズの基本的なリズムセクションだけで演奏された音楽は構成が単純なだけ良いものは良い、悪いものは悪いと分かりやすい。

このアルバムはその時の気分によってどの楽器を聴いても満足感を与えてくれる。

一時期のマイルスの主要なメンバーであったトニー・ウィリアムスのドラムスは自由自在である。ここではシンバル、ここではバスドラといった常識はトニーには存在しない。好きな時に好きなパーツを叩く。それが実に耳に心地よい。好きに叩いているように見えて実は繊細な計算が働いている。それがトニー・ウィリアムズのドラムスだ。

ふと気が付くとロン・カーターのベースが着実にフォー・ビートを刻んでいる。そしてハンク・ジョーンズの軽やかでスイング感あふれるピアノ。

週末に聴きたいジャズのトップクラスはこのアルバムであろう。メンバーは以下のとおりである。

  • Hank Jones(pf)
  • Ron Carter(b)
  • Tony Williams(ds)

(2015.10.22)

---デイブ・ブルーベック---


Dave Brubeck 「Brubeck Time」

Brubeck Time

デイブ・ブルーベックの初期の作品である。1955年のアルバム。ちなみに有名な"Take Five"は1959年に作られた。

独特のぎこちないスイング感でスイングする。片腕ポール・デスモンドのアルトサックスも健在である。

A面の1曲目「オードリー」が素晴らしい。

ほとんどポール・デスモンドのアルトサックスのソロで演奏される。オードリー・ヘプバーンが森から歩いて出てくるシーンをイメージしてデスモンドとブルーベックが作った曲だ。曲を聴くとその通りのシーンが目に浮かんでくる。これはデスモンド以外の人が演奏したらオードリー・ヘプバーンではなくなってしまうのでは、と思わせるほど楽器と曲想が一致した演奏だ。

1曲目の3分半で魂を抜かれてしまう気がするが、このアルバムはすべての曲が楽しい。スイング感にあふれていてウキウキしてしまう演奏ばかりである。

メンバーは以下のとおりである。

  • Paul Desmond(as)
  • Dave Brubeck(pf)
  • Bob Bates(b)
  • Joe Dodge(ds)

(2015.9.8)

---ポール・チェンバース---


Paul Chambers 「GO…」

GO…

モダンジャズのビッグネーム、ポール・チェンバース。

モダンジャズの名演奏といわれるアルバムのかなり多くのシーンにベーシストとして参加している。意外なのはリーダーアルバムが少ないことと34才で若死にしたということである。

このアルバムは数少ないポール・チェンバースのリーダーアルバムである。ベーシストのリーダーアルバムだからといってベースが前面に出ることはない。彼の個性なのだろう。自分はサポート役にまわって他のメンバーを際立たせようとする。アルトサックスのジュリアン・キャノンボール・アダレイにしてもピアノのウィントン・ケリーにしてもトランペットのフレディ・ハバードにしても実に気持ちよさそうに演奏している。

プレイヤーがリラックスして演奏していると聴いている我々も心地よい。

1面の3曲、2面の3曲いずれも甲乙つけがたい名演奏だが、好きなのは1面2曲目の"Just Friends"と2面2曲目の"Ease It"だ。

それぞれのプレイヤーが気持ちよさげに演奏しているのがわかる。ホーンセクションのふたり、キャノンボール・アダレイとフレディ・ハバードがなんともいえない良い音を出している。

メンバーは以下のとおりである。

  • Paul Chambers(b)
  • Julian "cannonball" Adderley(as)
  • Wynton Kelly(p)
  • Philly Joe Jones(ds)
  • Freddie Hubbard(tp)
  • Jimmy Cobb(ds)

(2015.8.23)

---ハービー・ハンコック---


Herbie Hancock 「The Prisoner」

The Prisoner

いかにもモダンジャズといった曲が並んだアルバムである。

1面1曲目の"I Have A Dream"がいい。この曲では特にホーンセクションを上手に使っている。曲の途中で突然出てくるJohnny Colesのフリューゲルホーンの音がたまらなくいい。トランペットではこの柔らかさは出せないだろう。そのあとに続くJoe Hendersonのテナーサックスもいい。

1面2曲目のタイトル曲"The Prisoner"もいい。ハービー・ハンコックの軽やかなエレピが効いている。モダンジャズ独特の暗さの漂う曲である。

2面1曲目の"Firewater"は全員で独特のメロディを演奏した後、Hubert Lawsのフルートを皮切りに次々とホーンセクションのソロが出てくる。やはり印象的なのはJohnny Colesのフリューゲルホーンで音が輝いている。このとき彼は絶好調だったに違いない。

2-2,"He Who Lives In Fear"、2-3,"Promise Of The Sun"、それぞれがモダンジャズ独特の良さを発揮している。ジャズに陰影、物憂さ、屈託といった一見マイナスのようではあるが心に染み入る何かを求めたい人におすすめのアルバムである。

名盤"Speak Like a Child (1968)"に続く1969年のブルーノート盤である。

(2015.7.23)

---デューク・エリントン---


デューク・エリントン「DUKE ELLINGTON VOL.U THE EARLY YEARS」

DUKE ELLINGTON VOL.U
THE EARLY YEARS

「A列車で行こう」も「ソリチュード」も「ムード・インディゴ」も「黒と茶の幻想」も「キャラヴァン」も「スイングしなけりゃ意味ないね」も「イン・ア・センチメンタル・ムード」も「サテン・ドール」も「ソフィスティケイテッド・レディ」も入っていないエベレスト盤のエリントンである。

有名な曲は入っていないが針を落とすとどこを聴いてもエリントンのサウンドである。

すべての曲が2分から3分の間に収まっている。ずいぶん豊かな音楽を聴いた気がするが実は2分45秒の曲だったりする。音の並びが豊かなのだ。3分もあればいいたいことがすべて言えるとでもいっているようだ。

この2分45秒の「HAPPY-GO-LUCKY LOCAL Pt.2」などはビッグバンドで表現できることのすべてが含まれている。何度でも聴きたくなる。

1946年11月25日と同年12月5日にニューヨークで録音されたものである。

(2015.6.22)

---バーニー・ケッセル---


バーニー・ケッセル「サマータイム・イン・モントルー」

サマータイム・イン・
モントルー

バーニー・ケッセルの1973年モントルー・ジャズ・フェスティバルでの実況録音盤である。

電気楽器大流行の70年代、このグループは完全にアコースティックだ。

楽器はアコースティックに限る。どう考えてもアコースティックのほうがダイナミックレンジは大きいし、音の表情も豊かだ。ジャズが人間的な感情を表現する音楽である以上電気楽器を使うべきではない。

生ギターの音はちゃんと録音されていればかなり強い。このセッションでのバーニー・ケッセルは実に表情豊かに演奏する。1面の「ブルー・ワールド」でのブライアン・レモンとの掛け合い、2面の「サマータイム」でのダニー・モスとの掛け合いは実に気持ちがいい。モダン・ジャズの最良の演奏だ。

共演者はダニー・モス(ts)、ブライアン・レモン(pf)、ケニー・ボルドック(b)、ジョニー・リチャードソン(ds)。

(2015.6.6)

---シェリー・マン---


シェリー・マン「ビル・エヴァンスに捧ぐ」

ビル・エヴァンスに捧ぐ

シェリー・マンの日本での実況録音盤である。

1981年4月21日と30日東京郵便貯金ホールで録音されたライブ盤だ。当時はジャズの大物が来日して大ホールで演奏会をやった。最近ではほとんどないのではないか。ジャズの大物がいなくなったのと大ホールでやっても客が入らないのでジャズクラブでドリンク付きのライブをやるのがほとんどである。

コンサートホールの数も今ほど多くなかったので新宿の厚生年金会館かこの郵便貯金会館というのが多かった。どちらも政府の資金で建てたホールである。サントリーホールとかオーチャードホールのような民間の施設は少なかった。

本アルバムは「ビル・エヴァンスに捧ぐ」というだけあってビル・エヴァンスの名曲を集めてある。全6曲。「ナーディス」「マイ・フーリッシュ・ハート」「いつか王子様が」「グッドバイ」「ハイ・フライ」「イエスタデイズ〜テイク・ザ・コルトレーン」。

共演者はマイク・ウォフォード(pf)、チャック・ドマニコ(b)。

ピアノのマイク・ウォフォードがいい。実に軽やかに弾いている。ベースのチャック・ドマニコもいい。典型的なピアノトリオの演奏だ。

御大シェリー・マンはあくまでバッキングに徹していて物足りないが、これがシェリー・マンである。

決して前面に出てこないドラムス。メンバーを後ろからやさしく包み込むようなドラムス。それがシェリー・マンである。

(2015.4.4)

---フィル・ウッズ---


フィル・ウッズ「フィル・ウッズ・ライブ・<br>フロム・ショーボート」

フィル・ウッズ・ライブ・フロム・ショーボート(表)


フィル・ウッズ「フィル・ウッズ・ライブ・フロム・ショーボート」

  〃 (裏)


フィル・ウッズのご機嫌な2枚組みのアルバムである。

ワシントンのジャズ・クラブ「ショーボート・ラウンジ」で1976年11月に録音されたライブ盤だ。

ライブ盤には人の話し声や食器のふれ合う音などが入っているものもあるが本アルバムはまるでスタジオ録音盤といってもいいくらい録音状態が良い。

全13曲。フィル・ウッズのいろいろな面が楽しめる。スローなテンポのバラード、アップテンポの曲、ポピュラーな曲から自作の曲まで、まさに「ショーボート」である。

共演者はマイク・メリロ(pf)、ハリー・リーヘイ(g)、スティーヴ・ギルモア(b)、ビル・グッドウィン(ds)、アリリオ・リマ(perc)と一人も知らないが、いつもやっているメンバーなんだろう、息がぴったり合っている。

A面2曲目の「レイン・ダンス」はメンバーのギタリスト、ハリー・リーヘイが作った曲らしいがフィル・ウッズのソプラノサックスがうねるように鳴り渡り、そこにハリー・リーヘイのギターが絡みつき、まさにモダンジャズの醍醐味だ。
B面最初の「チーク・トウ・チーク」アーヴィング・バーリンのおなじみの曲だがフィルのすばらしいアレンジでいかにもモダンジャズらしい曲になっている。

C面のブラジリアン・アフェアは20分を超える演奏だがラテンのリズムに乗ってアルトサックスを吹きまくっており、最後に観客が歓声を上げているのが録音されていてボリウムを上げ気味で聴くと自分が観客の中にいるかのようである。
D面最初の曲「アイム・レイト」はディズニー映画「不思議の国のアリス」の中の曲らしいがアップテンポなアレンジでソプラノサックスを吹きまくっており、思わず体が動いてしまう。

久しぶりに聴いたがフィル・ウッズのアルトサックスは実に軽快で歯切れがよく、聴いていて気持ちが良い。雨の降る日曜日なんかに少し気分を変えたいなと思ったらフィル・ウッズを聴くに限る。

(2015.3.8)

---ラムゼイ・ルイス---


ラムゼイ・ルイス「DOWN TO EARTH」

DOWN TO EARTH


昔ある人からマイルスやコルトレーンだと姿勢を正して聴かなければならないから窮屈だけど、ラムゼイ・ルイスなら楽な姿勢で聴けるから好きだ、と聞いた。

今聴いて見ると確かにそうだ。

聴いていると身も心もリラックスするのを感ずる。

全10曲。オリジナルもあれば名曲のアレンジもある。どれも楽な姿勢で聴ける。

オリジナルでは「Soul Mist」や「We Blue It」が面白い。アレンジ物では「Dark Eyes」や「Billy Boy」、「Suzanne」がおもしろかった。

バックのEl Dee Young(b)、Red Holt(ds)は知らないミュージシャンだがラムゼイ・ルイスの軽いがブルージーなピアノとぴったり息が合っている。

(2015.2.14)

---ポール・デスモンド---


ポール・デスモンド「ボッサ・アンティグア」

Bossa antigua


ポール・デスモンドのボサ・ノヴァ アルバム。

どれを聴いても眠くなるような心地よさを味わえる。

というかどれを聴いても同じように聞こえる。

全8曲中5曲がデスモンド作曲。どれもメロディアスで初めて聴いてもどこかで聴いたことがあるような感覚がある。

けだるい休日の午後、繰り返し流しておくと毛羽立った神経を一本一本羽毛で包み込んでくれる。 20分に1回ディスクをひっくり返さなくてはいけないのがめんどうであるが。

バックのジム・ホール(g)、ジーン・ライト(b)、コニー・ケイ(ds)もあくまでソフトにデスモンドの羽毛のようなアルトサックスに付き合っている。

(2015.1.27)

---サラ・ヴォーン---


サラ・ヴォーン「サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン」

サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン


日本語の題名は「サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン」であるが、原題は「SARAH VAUGHAN」である。題名に日本人に人気のあるクリフォード・ブラウンをつけておけば売れ行きが何割かアップするだろうという目論見か。

題名に付くほどクリフォード・ブラウンがクローズアップされているわけではない。伴奏者の一人としてフルートのハービー・マンやテナーサックスのポール・クィニシェットらと同じくらいの出番である。

それでもクリフォード・ブラウンのトランペット・ソロになるとすべてをさらってしまうくらい魅力的なのだが。

このアルバムではサラ・ヴォーンは西洋小唄と言ってもいいくらい、淡々と切なく歌う。

有名な「ララバイ・オブ・バードランド」や「エイプリル・イン・パリ」はもちろんのこと、あまり聴いたことのない「アイム・グラッド・ゼア・イズ・ユー」や「ジム」もいい。「セプテンバー・ソング」はこぶしが回っていて背筋がぞくぞくするほどである。

(2015.1.3)

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