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弘田三枝子/ アート・ペッパー/ メル・トーメ/ アート・ブレイキー/ ソニー・ロリンズ/ クリフォード・ブラウン/ 武田和命/ エリック・ドルフィー/ マイルス・デイビス/ オスカー・ピーターソン


---弘田三枝子---


弘田三枝子「MIEKO IN NEW YORK」

MIEKO IN NEW YORK


すばらしいジャズシンガーだ。何度聴いてもいい。

歌の一音一音に表現力があふれている。

第1面の「I'm Comin' Home Baby」のスキャットは本場のジャズシンガーが歌っているかのように流暢で表現力にあふれている。

第2面の「I Wish I Knew How It Would Feel To Be」は一流のゴスペルシンガーが歌っているかのようにソウルフルだ。

このLPは1965年7月、ニューポート・ジャズ・フェスティバル出演後、ビリー・テイラー・トリオをバックにスタジオで録音されたものだ。弘田三枝子18才。夢と希望にあふれていた。一曲一曲の歌声の中に喜びと高揚感が満ちていた。

帰国後の彼女に何があったのかはわからない。

1968年、リズム・アンド・ブルースのコンサートをサンケイホールで開催、ジャズ、ポップスに続きR&Bという新たなジャンルをものにした後、1969年、「人形の家」で第11回日本レコード大賞の歌唱賞を受賞した。21〜22才、普通の女の子なら大学生の年齢を境に何かが狂いだす。

現在67才の彼女はまだ現役でコンサート活動をしている。本来なら女性ジャズシンガーの大御所でいるべきはずの彼女は今どこにいるんだろう。

このLPは夢と希望にあふれていた女性シンガーの今となっては唯一残された貴重な記録であるとともに優秀なジャズボーカリストの記録でもある。

(2014.11.3)

---アート・ペッパー---


アート・ペッパー「ザ・トリップ」

THE TRIP


改めて聴いてみるとなかなかいい演奏だ。

その割には一般に言われているアートペッパーの名盤の中には入ってこないアルバムである。 アマゾンで調べてみると、新品の在庫はなく、中古品のみの販売、価格は27,978円よりとなっている。何かの間違いではないか。あの名盤「Art Pepper Meets The Rhythm Section」が893円で売っているのに。

第1面の「ザ・トリップ」は麻薬中毒で刑務所に入っていたときに作った曲で、今にも「べサメ・ムーチョ」が始まるんではないかと思わせて最後まで始まらない、という雰囲気の曲だ。この中途半端な感じもアートの繊細なアルト・サックスで聴くとなんとも知れない不安な心を表しているようで良い。

第2面の「おもいでの夏」も同様の雰囲気で気に入っている。

バックミュージシャンはピアノ;ジョージ・ケーブルズ,ベース;デヴィッド・ウィリアムズ,ドラムス;エルヴィン・ジョーンズと一流のメンバーで固めている。皆繊細なアルト・サックスを盛り立てるようにでしゃばることなく支えている。

(2014.9.14)

---メル・トーメ---


メル・トーメ「TOP DRAWER」

TOP DRAWER


TOP DRAWER(最高品質)という題名のこのアルバムはジャズボーカルの最高峰といえる。

ジョージ・シアリング(pf)、ドン・トンプソン(b)、メル・トーメ(vo)という組み合わせのユニットはボーカルをじっくり聞かせる最高の組み合わせだと思う。 オーケストラをバックに聴くボーカルはよほどうまく編集しないと歌がバックの音に吸収されてしまう。

ジョージ・シアリングのようなベテランのピアニストはボーカルの聞かせどころを十分わきまえた伴奏をする。ときには寄り添うように、ときには掛け合いのように付かず離れず絶妙のバランスで音楽を聴かせてくれる。

一面4曲目の「スターダスト」は名曲中の名曲でいろいろな演奏家がやっているがメル・トーメの自在な発声で新たな魅力が発見できた。二面1曲目の「ハイフライ」と2曲目の「煙が目にしみる」もさんざん演奏されてきた曲なのに新鮮な曲に聞こえるのはなぜだろう。

メルの自在な発声に加えてバックのふたりの絶妙な伴奏がなければこのアルバムは成立しないだろう。

(2014.8.23)

---アート・ブレイキー---


アート・ブレイキー「A NIGHT IN TUNISIA」

A NIGHT IN TUNISIA


ブレイキーのドラムソロが始まると耳と体をそちらへ向けてしまう。
時には軽快に、時には激しく、自由自在なドラムテクニックには感心してしまう。

このアルバムには5曲入っていてどれも特徴のある曲で素晴らしいが、白眉は1曲目の「チュニジアの夜」だ。曲の途中から雷鳴のように始まるブレイキーのドラムスはすさまじい。嵐と雷鳴の中を駆け上がる(ドラゴン)のようだ。

各曲の途中で必ず現れるリー・モーガンのトランペットソロは天才としか言いようのない鋭さで前後の曲想のイメージを変えてしまう。

昔、「ジャズと自由は手をつないでやってくる」という惹句があったが、このアルバムは「ブレイキーとモーガンがジャズを使って世界を開放する」といった感じだ。

【DATA】
(曲目)
  1. チュニジアの夜
  2. シンシアリー・ダイアナ
  3. ソー・タイアード
  4. ヤマ
  5. 小僧のワルツ
(演奏者)
  • リー・モーガン(tp)
  • ウェイン・ショーター(ts)
  • ボビー・ティモンズ(p)
  • ジミー・メリット(b)
  • アート・ブレイキー(ds)

(2014.6.7)

---ソニー・ロリンズ---


ソニー・ロリンズ「Vol.2」

Sonny Rollins Vol.2


Sonny Rollins Vol.2。ブルーノート・レコードの1558番である。

メンバーはソニー・ロリンズ(ts)、J.J.ジョンソン(tb)、ホレス・シルバー(pf)、セロニアス・モンク(pf)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds)というモダンジャズを代表するプレイヤーばかり。

A面3曲、B面3曲、全6曲のどれもが素晴らしい。

モンクの独特のピアノ演奏を聞くのであればA面3曲目の"ミステリオーソ"とB面1曲目の"リフレクションズ"。ブレイキーの奔放なドラムスを聞きたくなったらA面2曲目の"ウェイル・マーチ"。

トロンボーンという楽器にこんなに軽やかな音が出せるのか、と驚いたのがA面2曲目のJ.J.ジョンソンの演奏だ。

全編にわたってソニー・ロリンズのソロは素晴らしく、テナーサックスの演奏はこのアルバムだけ聴いていればいいのではないか、と思わせてしまう。

(2014.5.18)

---クリフォード・ブラウン---


クリフォード・ブラウン「メモリアム・アルバム」

メモリアム・アルバム


ブルーノートの1526番はクリフォードブラウンの名盤「メモリアム・アルバム」である。

クリフォード・ブラウンが生前録音した作品はほとんど残っておりレコード化されているが、どれか一枚、と問われたらこれを差し出す。

このレコードのブラウニーを聴くと楽器を自由自在に扱えるというのはどれほど気持ちのいいもんだろう、と思わざるを得ない。

ひたすらブラウニーのトランペットの音を聴くだけでよいレコードである。

ただ何回も聴いているといろいろな音が聞こえてくる。 ずいぶんクリアーなピアノの音がすると思ってライナーノーツをみるとジョン・ルイスだったり、激しいドラムスの音がすると思うと、「ナイアガラ・ロール」のアート・ブレイキーだったりする。その他アルトサックスのルー・ドナルドソンやもうひとりのドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズが印象的な演奏をしている。

早世した芸術家は残念な気もするが、一面「天馬空を行く」演奏しかないという印象を後の世のわれわれに与える。

25才で亡くなったブラウニーは衰えた姿を見せることはなかった。 もう少しでいいから演奏を聴かせてほしかった、と思うのは勝手なジャズファンの独り言である。

(2014.4.19)

---武田和命---


武田和命「ジェントル・ノヴェンバー」

ジェントル・ノヴェンバー


25,6年前市川の”りぶる”という小さなライブハウスで山下洋輔トリオのライブがあった。

当時山下洋輔はレギュラーのトリオを解散し、新たな方向を模索中だった。この時の演奏はピアノ山下洋輔、ドラムス小山彰太、そしてテナーサックス武田和命(かずのり)というトリオだった。

その時の武田は前任者のアルトサックス奏者坂田明なみに吹きまくった。咆哮するという表現がぴったりだった。

これは唯一の武田のリーダーアルバムである。このアルバムでの武田は”動”に対して”静”、ひたすら静かにブルースを吹く。ピアノを弾く山下洋輔もひたすら伴奏に徹している。山下独特のフレーズを出すこともない。

このアルバムは冬の夜、熱いココアを飲みながら1人昔のことを思い出しながら聞くのがよい。いろいろなことを思い出させてくれる。

あの日”りぶる”で咆哮していた武田は4,5年後1枚のリーダーアルバムを残して49才で()ってしまった。

(2014.2.16)

*             *             *

武田和命が亡くなったのは1989年8月18日であった。筆者が「りぶる」で武田和命の吠えるようなテナーサックスを聴いたのは1985年または1986年であった。亡くなる3、4年前であった。

「りぶる」のマスターの名前は須田美和(よしかず)さんといい、1986年当時38才であった。痩身でいかにも自由人という服装をしていた。ジャズ喫茶のマスターのイメージ通りの様子をしていた。

りぶる看板

筆者が武田和命のテナーを聴いた20年後の2006年、音楽仲間やジャズ喫茶店主のブログに須田氏失踪の知らせが載った。

ーーー「りぶる」のマスター須田美和さん(58歳)が先週の月曜日(20日)午後1時頃に自宅の東船橋から「慈恵医大青戸病院へ行く」と言い残し車を自分で運転し、病院へ向かったそうなのですが、そのまま音信が途絶えてしまったそうです。ーーー警察の情報で、須田さんの車が、荒川区の国道4号線、千住大橋付近を、20日の夜8:00頃、入谷方面から河川敷方向に通過しているということが判明しています。ーーーもし、何かお心当たりのある方がおられましたら、是非お知らせいただけますよう広く呼びかけていただけないでしょうか。ーーー

そして2009年、ある音楽関係者のブログに以下の知らせが載った。

ーーー訃報です。須田さんを心配されていた方々や、須田さんを「りぶる」を大好きだった方々へ。ーーー りぶる店内 須田美和さんは品川・日の出埠頭で車ごと見つかったそうです。3年ぶりにやっと。。海を放浪していた須田さんは疲れて見つけてほしかった、本当におつかれさま、・・・お帰りなさい・・・。ーーー

JR市川駅近くにあった「りぶる」はもうない。今行くと、山下洋輔や明田川荘之らが熱い演奏を繰り広げた場所とは思えない、普通の住宅街になっている。

山下洋輔(78才)と明田川荘之(70才)は今も現役で活躍している。

(2020.12.2)


---エリック・ドルフィー---


エリック・ドルフィー「'OUT TO LUNCH」

'OUT TO LUNCH


題名が”'OUT TO LUNCH”(食事に出ています)。アルバムの写真ではドアに”WILL BE BACK”(何時に戻ります)の看板があり、時計の針があっちこっちの時刻を指している。 古そうなドア、カビの生えたような日よけ、紐はあとから付け替えたんだろう。何の店だろう。想像力を刺激される写真である。

中身の音楽も変わっていてこの表紙のようである。どこかへ行ってしまっていつ戻って来るんだかわからない、といったような。 所々すばらしいフレーズが出てくるが全体としてみるとなんだか散漫な印象しか受けない。

小さい音で繰り返し流しておいて、別のことをやっているとふとすばらしいフレーズに出会って聞き入ってしまう。という聴き方が似合う音楽かもしれない。

(2014.2.11)

---マイルス・デイビス---


マイルス・デイビス「'ROUND ABOUT MIDNIGHT」

'ROUND ABOUT MIDNIGHT


曲目

  • 'Round Midnight
  • Ah-Leu-Cha
  • All of You

  • Bye Bye Blackbird
  • Tadd's Delight
  • Dear Old Stockholm

メンバー

  • Miles Davis (tp)
  • John Coltrane (ts)
  • Red Garland (pf)
  • Paul Chambers (b)
  • Philly Joe Jones (ds)

黄金のクインテットによるモダンジャズの名盤である。

”'Round Midnight”でマイルスはトランペットにミュートを付け独特の音色で夜明け前の状況を表現する。ミュートを付けることによって、本来トランペットが持つ明るい音色では表現できなかった内省的な感情を表現することができた。一面の一曲目と三曲目、二面の一曲目と三曲目をミュートを付けたトランペットで吹いている。

”Bye Bye Blackbird”と”Dear Old Stockholm”はなんとなく懐かしいメロディである。アメリカ民謡をアレンジしたような曲想だ。マイルスのミュートトランペットは子供のころ聴いたようなメロディを心の深いところから掘り起こすように嫋嫋(じょうじょう)と鳴っている。マイルスに抜擢されたばかりのジョン・コルトレーンのテナーサックスも効いている。

1950年代に録音されたこのアルバムはモダンジャズを聴く上で欠かせない一枚である。

(2014.1.26)

---オスカー・ピーターソン---


オスカー・ピーターソン「TRACKS」

TRACKS


数あるオスカー・ピーターソンのソロ・ピアノアルバムの中でも名盤といわれているわけではない。

1番最初に買ったジャズのレコードがこれだった。

当時ジャズを聴いてみたいが何を聴いたらいいのかわからない。唯一知っている名前がオスカー・ピーターソンだった。それもオスカー・ピーターソンだったかピーター・オスカーソンだったかうろ覚えの状態で御茶ノ水のレコード店へ行ったような気がする。

今聞いてみるとなかなかいい選曲だ。”ベイズン・ストリート・ブルース””ハニー・サックル・ローズ””ア・チャイルド・イズ・ボーン””君失わば””ジャンゴ”などがはいっている。

もし当時の自分にアドヴィスできるならば「オスカー・ピーターソンを買うなら”プリーズ・リクエスト”にしたら」と言うかもしれない。

(2014.1.1)

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