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スリー・ビルボード / ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 / 西部の男 / グリーンブック



---スリー・ビルボード(DVD)---


スリー・ビルボード

原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」。第90回アカデミー賞で2部門(主演女優賞・助演男優賞)を受賞した。

スリー・ビルボード

娘を殺された母親の復讐譚である。

母親が一匹狼のガンマンに見える。主役をクリント・イーストウッドにすれば現代的なウエスタンになるだろう。架空の街エビングの様子も西部劇でお馴染みの街のようだ。保安官事務所があり、酒場がある。街外れの一軒家に住む主人公。

主人公がクリント・イーストウッドなら、自分で犯人を探しだし、彼自身が警察に代わって処罰するだろう。主人公は現代社会に生きる一市民である。看板またはSNSで不特定多数の人に訴えかけるしか手はない。

警察署長も部下も主婦もやるべきことをやっている。彼らの努力はどこかにいる犯人には届かない。無力感に満ちた話は我々が毎日目にするさまざまな事件で味わうことと同じである。

ミルドレッド・ヘイズ

深刻な内容なのに、おもわず笑ってしまったり、泣いてしまったりする。脚本がどの人物にも寄り添わないで、客観的に突き放しているからだろう。

主婦役のフランシス・マクドーマンド、レイシストの警官役のサム・ロックウェルの演技がみごと。ラストシーンの二人の会話はなんとも言えない味があった。「カサブランカ」のラストシーンを思い出した。

本作品が西部劇の様式に従っている点を以下に列挙する。

  1. ミルドレッドが広告社に道の向こう側から入ってくるところをドアの内側から撮っているシーン。西部劇だと酒場のドアを押し開けて入ってくる。
  2. ミルドレッドがデニスからタバコをもらってひと吸いしてから弾き捨てるシーン。クリント・イーストウッド得意のポーズ。
  3. ミルドレッドが高校生を蹴り倒すシーン。ジョン・ウエイン得意のアクション。
  4. ミルドレッドがビール瓶を逆手に持って元亭主に迫るシーン。西部劇だと瓶をテーブルの角で割って迫る。
  5. ウィロビー所長がひとりだけ保安官のかっこをしてる。どう見ても保安官。後任の署長はスーツ。
  6. ミルドレッドが息子にシリアルをかけるシーン。西部劇だと豆のスープ。
  7. 犯人らしき男が犬の置物を投げてガラスが割れるシーン。酒場のけんかのシーンでは必ず大鏡をグラスや椅子を投げて割る。
  8. ディクソンがバッジを返すシーン。雇われ保安官助手が最後に必ず返す。
  9. ミルドレッドがビール瓶を逆手に持って元亭主に迫るシーン。西部劇だと瓶をテーブルの角で割って迫る。
  10. ディクソンとママがカウチに座って悪巧みをするシーン。西部劇だと悪人たちが焚き火の前で悪巧みをする。
  11. チャーリー(元夫)の彼女が馬の世話をしている。その前は動物園の世話係。
  12. ジェームズ(小人)がビリヤードの名人である。西部劇では必ずビリヤードのシーンがある。
  13. ウィロビー所長が馬を飼っている。西部劇に馬はつきもの。
  14. ラストでミルドレッドとディスソンが車で去っていくシーン。西部劇だと馬で去っていく。


(2021.8.11)



---ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語(DVD)---


ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

原題は「Little Women」、L.M.オルコットの原作と同名である。

主人公のジョー役に若手実力派のシアーシャ・ローナン、エイミー役にフローレンス・ピュー、母親役に実力派のローラ・ダーンを配し、マーチ伯母役にメリル・ストリープが出演している。

シアーシャ・ローナンは13才の時に出演した「つぐない」をはじめ、19才の時の「グランド・ブダペスト・ホテル」、21才の時の「ブルックリン」、24才の時の「追想」、そして25才の時に撮影された本作と年代を追ってみている。

「つぐない」を観た時にすごい女優だな、と思った。メリル・ストリープ同様あまり特徴のない顔だが、演じた役の内面がスクリーンを通してぐいぐい伝わってくる。今回のジョー・マーチは比較的わかりやすい役だが、「ブルックリン」や「追想」の主人公は役者の力量次第ではつまらない映画になるところだった。

1994年生まれのシアーシャ・ローナンはこれからも目が離せない女優である。

(2021.7.29)



---西部の男(BS-1)---


西部の男1

原題は「THE WESTERNER」である。

1940年のウイリアム・ワイラー監督作品である。主演はゲイリー・クーパー。クーパー39才の時の映像だから筆者が見たクーパーの中では一番若い。「誰がために鐘は鳴る」の時が42才、「真昼の決闘」の時は51才、「昼下りの情事」でオードリー・ヘップバーンと共演したのは56才の時であった。

流れ者のクーパーがある町にやってくる。町を支配しているのはロイ・ビーン。ロイ・ビーンは実在の人物である。酒場を経営しながら、その酒場を法廷にして犯罪人を裁く判事でもあった。

演じたのはウォルター・ブレナン。影の主役である。ブレナンの演技がすごかった。酒場のオヤジで判事という複雑な性格の男をみごとに演じていた。

西部開拓時代、土地に定住し、農作物を育てる農民たちと、牛の餌になる草を追い求めながら放牧するカウボーイたちとの戦い。なぜかカウボーイに味方するロイ・ビーン判事。

西部の男2

農民の娘と親しくなったクーパーはカウボーイと戦う。敵であるはずのロイ・ビーンとは付かず離れずの関係、ロイ・ビーンは悪人だがなぜか憎めない。

ラストはロイ・ビーンが借り切った劇場の中でクーパーとの一騎打ち。敗れたロイ・ビーンはクーパーに抱き抱えられながら、憧れの女優リリーと対面する。

誰かロイ・ビーンを主役にしてリメイクしてくれないか。ロイ・ビーン役はウォルター・ブレナン以外考えられないところが難点だが。

(2021.7.23)



---グリーンブック(DVD)---


グリーンブック

ヴィゴ・モーテンセン演ずるトニー・リップ・ヴァレロンガの息子ニック・ヴァレロンガが製作・脚本を担当し、実話を映画化した。自分の父親とピアニスト、ドン・シャーリーの出会いと友情を描いている。

映画は酒場の用心棒をクビになったトニー・リップがカーネギー・ホールの上階に住んでいるドン・シャーリーの面接を受けにいくシーンから始まる。トニー・リップがドン・シャーリーの運転手兼用心棒に採用されたことからふたりの交流は始まる。

トニー・リップが驚いたように、筆者もカーネギー・ホールの上の階がマンションになっていることを映画で見て初めて知った。

1950年代ドン・シャーリーというジャズ・ピアニストがいたことは知らなかったが、ドン・シャーリーがジャズを弾いたのは余技で、本職はクラシックのピアニストであった。だがAmazonで検索してもドン・シャーリーのクラシックのレコードは出てこない。

ジャズのレコードは出てくるが、クラシックのレコードは出てこない。なんとなく人種差別的なものがありそうだ。白人のピアニスト、ビル・エヴァンスが黒人のジャズクラブで差別されたように。

映画は不当な人種差別のなかで演奏するドン・シャーリーとそれを見ているうちに自分の中の差別的な感情が消えていくトニー・リップの気持ちを的確なセリフとキレのいいカットで表現していく。アカデミー賞の作品、脚本、助演男優の3賞を受賞した。

トニー・リップを演じたヴィゴ・モーテンセンが主演男優賞を受賞できなかったのは残念だが、その年に受賞したのが「ボヘミアン・ラプソディ」でフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックじゃあ仕方がないか。

(2021.7.22)


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