原題も「Crooked Hous」そのまま「ねじれた家」。
Web映画サイトの評価が5点満点のところ2.9、都内で1ヶ所、千葉県で1ヶ所という少ない上映館の数。しかも両館共早朝の上映1回のみという超虐げられた映画であった。この映画を映画館で見ることができた人はかなり少ないだろう。
という前置きから一気に結果に飛ぶ。この映画は二重丸であった。点数をつけるならば4.2点。
なぜ拡大上映しないのだろう。配役にスターがいない。探偵がポワロやミス・マープルではなく、全員を集めての謎解きもない。昨年の正月映画「オリエント急行殺人事件」は全国展開で公開された。こちらはケネス・ブラナー監督主演、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー出演のオールスター映画であった。最後に全員集合してポワロのもったいぶった謎解きがあった。
「ねじれた家」の出演者で知られた俳優はグレン・クローズとテレンス・スタンプくらいである。派手な謎解きシーンもない。
映画としての緊張感、面白さ、画面に引きつける力は「ねじれた家」の方が「オリエント急行」よりはるかに優れていた。
本映画はアガサ・クリスティーの世界を忠実に描いていた。事件の起こるお城のような大邸宅とその家具の格調の高さ。その庭が見る者によってはため息が出るようなイングリッシュガーデンである。邸宅内にことさら強調することもなく飾られている名画の数々が本物に見える。探偵の事務所が古色蒼然として机の上の小物一つ一つに実在感がある。アンティーク小物好きなら時々画面を一時停止して確認したいところだろう。探偵の乗る車、グレン・クローズの乗る車が見る者によってはため息が出るようなクラシックカーである。見逃したものがあるかもしれないが一つ一つの画面が本物の雰囲気を漂わせていてわざとらしさがない。
その背景で演技する役者はグレン・クローズとテレンス・スタンプばかりでなく皆見事に演技していた。特に主役の三人、探偵役のマックス・アイアンズ(34才)と大富豪の孫娘役のステファニー・マーティニ(28才)、その妹役のオナー・ニーフシー(14才)はそれぞれが魅力的であった。
物語は死んだ大富豪の家に同居している後妻、長男夫婦、次男夫婦、先妻の姉、長男夫婦の息子と娘たち、彼らの乳母、家庭教師それぞれが「ねじれ」ていていかにも何か起こりそう。そのねじれ具合が最近の日本に起きている家族間でのいざこざやいじめなどと似通っていて変に現代的である。家族間のいざこざは昔も今も変わらないのかもしれない。
この映画の監督ジル・パケ=ブランネールはフランス人で1974年9月生まれの44才。「ねじれた家」まで8作の作品がある。古い順番から列記すると、
- 2001年…美しい妹
- 2003年…マルセイユ・ヴァイス
- 2007年…クラッシュ・ブレイク
- 2007年…UV-プールサイド
- 2009年…ザ・ウォール
- 2010年…サラの鍵
- 2015年…ダーク・プレイス
- 2017年…ねじれた家
となっており、エロティックものからバイオレンスもの、オカルトものまで様々な分野にトライしている。映画サイトの評価はいずれも低いが、サイトで2.9点の「ねじれた家」は筆者の評価では4.2点なのであてにならない。
映画サイトで唯一評価の高い「サラの鍵」はまぎれもない傑作で公開当時筆者も観ている。映画のラストで現在のサラの幸せな様子を延々と描写する。彼女の笑顔を見ているうちに近代ヨーロッパの悲惨な歴史を乗り越えてきた普通の人々の運命を自らのこととして感じる。そういう映画であった。
今後この監督に注目したい。またクリスティーの原作もこれを機会に読んでおきたい。
(2019.6.16)
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