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ゴーン・ガール / インターステラー / イコライザー / アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜 / ジャージー・ボーイズ / 舞妓はレディ / フライト・ゲーム / ジゴロ・イン・ニューヨーク / ウッジョブ!〜神去なあなあ日常〜 / グランド・ブダペスト・ホテル / とらわれて夏 / ウォルト・ディズニーの約束 / ネブラスカふたつの心をつなぐ旅 / ラッシュ/プライドと友情 / "鑑定士と顔のない依頼人”についての会話


---ゴーン・ガール---


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映画の中でヒッチコックの「サイコ」の1シーンをほうふつさせるシーンがあった。サイコもののひとつですという監督のメッセージか。

ミッシングものは悲劇に終わることが多い。

この話は妻の失踪という場面から始まる。途中から妻の視点からの画面が交互に出てくる。この話が納得できない。納得できない感じが延々と続き、さらに納得できない行動から結末に達する。

結末のシーンはファーストシーンと同じシーンとなる。そして後に残るのは妻の不気味さだ。

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ベン・アフレックは何が起こったのかわからず右往左往する夫役がぴったりだった。妻役のロザムンド・パイクは何を考えているのかわからない演技がなんとも言えず不気味だった。

それにしても2時間40分は長かった。ヒッチコックなら1時間40分くらいでまとめるだろう。

(2014.12.20)

---インターステラー---


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170分の映像を退屈することなく見入ってしまった。次に何が起こるんだろう、と観客や読者に思わせるのがすぐれた作家の条件であるならばクリストファー・ノーラン監督は実に大した映画作家である。

この映画では地球はどこまでも埃っぽく、宇宙は恐ろしく深い。

主演のマシュー・マコノヒーは地球では農夫、宇宙では宇宙船の船長をするがどちらも違和感がない。初めて見る役者だがほとんどの画面でアップで出ていてその表情に引き付けられた。共演はアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン、マイケル・ケイン、ジョン・リスゴーと大物ばかり。思わぬところでマット・デイモンが出てきたりする。

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話の中身は人類を滅亡から救う、という大きなことと幼い娘との約束を守って必ず帰る、という個人的なことを両立させるというもの。今日は残業しないで早く帰って来てと幼い娘に言われて四苦八苦するお父さんのようなものだ。

主人公に相反するふたつのことをやらせるために脚本家は苦労した。そしてこのジレンマをうまく解決することはできなかった。世のお父さんたちと同様に。

どう考えてもブラックホールまで行っちゃった主人公が無事に帰れるはずがない。とてつもなく深い宇宙を表現したのに、そこの部分だけ宇宙が馬鹿に浅いのだ。この映画はSF宇宙ものであるとともに父と娘ものでもある。そのへんのところは大目に見るか。

(2014.11.29)

---イコライザー---


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デンゼル・ワシントン主演の勧善懲悪もの。

悪役は久しぶりのロシア人である。昔はアメリカ映画の悪役といえばロシア人と決まっていたものだが、最近は中東のテロリストにその座を奪われ肩身が狭い思いをしていたのではないか。 この映画では思いっきりロシア人が悪役を務めている。しかもちょっと行っちゃってる気持ち悪い悪役だ。

正義の味方デンゼル・ワシントンは後から考えるとここまでやるか的なシチュエーションなのだが、やってる最中は演技力がものをいって不自然さを感じさせない。

二流の役者がやったら不自然すぎて見ていられないシーンも彼がやると緊張感あふれるいいシーンになる。映画において役者の力がいかに大きいものかを感じた。

映画の本筋とは関係ないのだが、主人公はいつも深夜営業のレストランで紅茶を飲みながら本を読んでいる。100冊の推薦本みたいなものを順番に読んでいる。91冊目、ヘミングウェイの「老人と海」を読んでいるときに事件の発端となる10代の娼婦と出会うのだ。

事件が進むにつれて読了し、次の本は「ドン・キホーテ」のようだった。訊かれるままに本の内容を話してやる主人公は少女のお父さんのようだ。この映画はサスペンスものであるとともに父と娘ものでもある。事件が解決し、晴れ晴れとした顔で少女に別れを告げる主人公が抱えていた本はアメリカの黒人作家ラルフ・エリスンの「見えない人間」だった。

(2014.11.4)

---アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜---


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家庭ドラマ&ボーイ・ミーツ・ガールもので、恋愛ドラマと見せかけて実は父親と息子ものという隠しテーマがその下に流れているという二重構造の映画だった。

イギリス映画だけにちょっとした味付けがしてあり、それがいいアクセントになっている。 主人公の青年がタイムトラベラーなのだ。ただし、しばりがあり、自分の過去に関してのみその能力を使えるというもの。このしばりによってドラマが荒唐無稽なものになるのを防いでいる。また最後の父親と息子の感動的な会話につながっている。

ボーイ・ミーツ・ガールだから主人公の男女が若いころからのシーンがあるのだが41才のドーナル・グリーソンと36才のレイチェル・マクアダムスが10代を演じて全然不自然さが無い。演技力とメイクの進歩か。

作品リストを見るとドーナル・グリーソンは「アンナ・カレーニナ」でリョービンを演じていた。また、レイチェル・マクアダムスは「パッション」でクールで怖い女を演じていた。ふたりとも前作とは全然違う役を自然に演じていて役者の演技力は凄いと思った。

(2014.10.5)

---ジャージー・ボーイズ---


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今年、1月18日のコンサート"フランキー・ヴァリ in 日比谷公会堂"で歌と歌の合間に「今クリント・イーストウッド監督と映画を作っていて、その打ち合わせのために来日が遅れてしまった」と言っていた。

それがこの映画だ。

イーストウッド監督らしくあくまでリアルにフランキー・ヴァリの青春時代を切り取っていた。

コンサートでの歌に対する律義で誠実な態度はこういう苛烈な経験を通して生まれたのか、と改めて思った。この映画を見てからあのコンサートに臨めばまた違った印象を持ったに違いない。少なくともコンサートで最後に歌った「君の瞳に恋してる」を聴いて平静ではいられなかったろう。

主演のジョン・ロイド・ヤングは舞台のほうの人らしく映画はこれが初めてのようだ。雰囲気や歌声がフランキー・ヴァリにそっくり。映画の中で歌われる数多くの歌が本物を聴いているようだった。「シェリー」や「君の瞳に恋してる」がこういう風に生まれたのか、ということもわかって興味深かった。それにしても映画を見てからコンサートに臨めば2倍楽しめたのに…。

(2014.9.28)

---舞妓はレディ---


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これは面白かった。

「マイコハレディ」は「マイフェアレディ」を下敷きにしているが舞台は日本独特の世界、京都の芸妓の世界である。

しきたりとか風習とかいうものが日本で一番残っている世界に青森から出てきた16才の女の子を置いたらどうなるのか。水と油のように本来溶け合うことの無い物質を混ぜたらどうなるか。そういうことを考えるのが好きな監督である。『ファンシイダンス』でも『シコふんじゃった。』でも『Shall we ダンス?』でも『それでもボクはやってない』でもそういうところから生ずる摩擦やトラブルを巧みにすくい上げてみごとなドラマに仕立てあげている。

本作でも見事に成功している。

ヒギンズ教授役の長谷川博己、ピッカリング大佐役の岸部一徳は見ていて安心できる。特に長谷川博己はレックス・ハリソンからアクの強さを除いた感じでロリコン映画になるのを防いでいる。

富司純子の着物の着こなしは惚れ惚れするほどであった。その娘役の田畑智子は水を得た魚のよう、それもそのはず彼女の母親は舞妓さん出身で京都の料亭の女将である。

特筆すべきは主演の新人上白石萌音16才。彼女なくしてこの映画の成功は無かった。素直な歌声、素直な演技、最近の女優さんの中でこんな素直な感じの人はいなかった。

歌曲は残念ながら「マイフェアレディ」とは違い、歴史に残るような名曲は無かったように思う。それでもフィナーレで歌う「マーイコワレディー〜」の歌は映画館を出てからもしばらく耳について離れなかった。映画を見た人全員帰りみちこの歌が耳の中に残っていたのではないだろうか。

(2014.9.20)

---フライト・ゲーム---


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これは面白かった。

「96時間」以来アクションスターとなったリーアム・ニーソンのサスペンス&アクションものである。

2時間弱の間ハラハラドキドキ、これからどうなるんだろうという興味が最後まで持続した。こういう映画は意外と少ないものである。

我々がアメリカ映画に求めるのはまさにそういう映画で、難しくて考え込むような映画を見たくなったら他の国の映画にする。

「96時間リベンジ」で全力疾走のできない俳優はアクション映画に向かないと書いたが、本作の舞台は飛行機の中である。全力疾走する必要はない。

こういう状況でならリーアム・ニーソンもアクションスターで通用する。私と同じ62才である。まだ当分の間アクションで頑張ってほしい。

(2014.9.15)

---ジゴロ・イン・ニューヨーク---


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この手の映画ならもう少ししゃれたセリフがあると思った。

何しろウディ・アレンである。

ただしこの映画ではウディ・アレンは監督をしていない。監督、脚本はジョン・タートゥーロというイタリア系のおじさんである。

またこの手の映画では魅力的な女優さんが目当てでもある。

前座でシャロン・ストーンが出てくる。彼女は良かった。その相棒のソフィア・ベルガラという女優さんも良かった。

問題はトリである。

ヴァネッサ・パラディ。え〜、このヒト?

イタリア人はこういうのがいいのか?

ということで残念な映画であった。

(2014.7.26)

---ウッジョブ!〜神去なあなあ日常〜---


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三浦しをん原作の映画化である。

面白かった。

原作が発売された時から読んでみたいと思っていたのだが、なんとなく買いそびれてしまい、映画を見た後文庫本を買った。

三浦しをんは「月魚」では古書の、「風が強く吹いている」では駅伝の、「舟を編む」では辞書編集の世界を描いてきた。
本作では林業の世界を描いている。

映画では映画ならではの視覚的な林業の世界を描いていて興味深かった。杉の大木が倒れるシーンやその大木を滑り落とすシーンは見ていてワクワクした。100年以上たった古い木には魂が宿っているのではないかと思った。

(2014.6.11)

---グランド・ブダペスト・ホテル---


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ヨーロッパ映画である。

コメディなんだけど舌触りが苦い。アメリカ映画みたいに底抜けにおバカに徹しきれない。その分深読みができる。

ロベルト・ベニーニの「ライフ・イズ・ビューティフル」の系列の映画である。

作家の銅像の前で少女がその作家の本を読んでいる。本の中で作家は語る。昔老人からこういう話を聴いた。そこから老人が語り始める。自分が昔ベルボーイをしていたころ……。

映画を見ている我々は額縁の中の絵を鑑賞するように第二次世界大戦中のヨーロッパのとある国で起こった出来事を体験する。

話はミステリー仕立てになっており直接には関係しないがナチスドイツと思われる軍隊が微妙に全体の話に影響している。
これは紛れもないヨーロッパ映画である。

(2014.6.11)

---とらわれて夏---


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「去年の夏」「思い出の夏」「スタンド・バイ・ミー」につながる「あの時はこうだった」物のひとつである。

主人公は14才の男の子、シングルマザーの母親と二人暮らし。そこにあらわれた脱獄囚。脱獄囚との5日間の生活。レイバー・デイ(Labor Day)前後の5日間は、男の子にとっての「思い出の夏」になった。

ちなみにレイバー・デイは「労働者の日」の意味で、アメリカ合衆国の祝日の一つ、9月の第一月曜日と定められている。新学期が始まる日でもある。

映画の原題はその「Labor Day」。

映画の最後に現れる現在の「男の子」は繁盛しているピーチパイの店のオーナー(40才前後)である。

ある日彼に手紙が届く。差出人はあの日突然あらわれた脱獄囚だった。 刑務所の図書館でピーチパイの写真が載っている雑誌を見た。君は元気でいるらしい。ところで君のお母さんはまだ独りでいるのか。そして彼女に手紙を送ってもいいだろうか、と書いてあった。

「男の子」は思い出す。夏休みが終わり、新学期が始まろうとしていたあの日のことを。

映画はその日から始まる。

この映画は母と息子ものであり、変形の父と息子ものでもある。

最後のシーンですべてのことがひとつにまとまり、観客は大きな満足感に浸ることになる。

(2014.6.1)

---ウォルト・ディズニーの約束---


ウォルト・ディズニーの約束

原題は”Saving Mr. Banks”

メリー・ポピンズの作者トラヴァス夫人がなぜ映画化を20年間拒み続けてきたのか。ウォルト・ディズニーがかたくななトラヴァス夫人の心をどうやって解きほぐしたのか。

映画が進むにつれて徐々に解明されてくる。

最後に残るのはトラヴァス夫人の心の底にある寂しさである。

トラヴァス夫人の心の底まで演じきったエマ・トンプソンは見事というしかない。

日本の題名とポスターに騙されてはいけない。これは人生の苦さを表現した映画である。

こういう映画は嫌いではない。

(2014.3.23)

---ネブラスカふたつの心をつなぐ旅---


ネブラスカふたつの心をつなぐ旅

原題通り”ネブラスカ”ではなぜいけないのかと思うが日本の映画は昔からこういう説明的な題名をつけて客を呼び込もうという習慣だから仕方がないのかもしれない。

これは現代のドン・キホーテの話である。元祖ドン・キホーテならもう少し英雄的な冒険が待っているのだが現代のドン・キホーテにはそういうものはない。ただ世知辛い現実があるのみである。救いはサンチョ・パンサ役の次男が最後まで父親のドン・キホーテを見捨てずお供をするところである。

主演のボケかけた父親役にブルース・ダーン、その旧友にステイシー・キーチを配役し、モノクロ画面、少し苦めのラスト、というところは往年のアメリカン・ニュー・シネマを思い起こさせた。

(2014.3.2)

---ラッシュ/プライドと友情---


ラッシュ/プライドと友情

まさしくプライドと友情についての映画だった。舞台がF1レースとあれば男の世界。それをロン・ハワード監督は真正面から描き切った。

レースのシーンは迫力があったが、F1レースならこうなるだろうなという予想を裏切ることもなく、勝ったり負けたり怪我をしたりという展開は人間ドラマとしては底が浅かったのではないか、と思った。

アカデミー賞レースのど真ん中に当ててきた映画だが、残念ながらどの部門にもノミネートされなかったようだ。

(2014.2.23)


( 時々顔を出すTより )

RUSH感想文;

この映画は一見「男のロマンを凝縮した映画」である。最初はそう思ったし、間違ってはいないと思う。 だが、裏テーマは「女の願望」なのではないかと、日が経つにつれて思うようになった。

物語はタイプの正反対なイケメン主人公たちが登場する。

一人は女たらしで考えなしだが、レーサーとして天才的な操縦感覚をもつジェームス。 もう一人は掴み所の無い嫌われ者の一匹狼だが、その計算尽くされた操縦で確実に勝利するラウダ。 実話とは思えないほど完璧に女性好みの人物像とライバル関係。

随所に出てくる思春期の男の子が興奮してしまうようなラブシーンも、男性向けというより、女性向けだった。 鍛え抜かれた男性の肉体美と、女性憧れのレースクイーン体型を、露骨に見せるのではなく、画面がロマンティックだった。

何より女性映画だと思った瞬間は、冷静沈着なニキ・ラウダが後に妻になる女性と初めて出会ったシーンにあった。 ラウダはレース以外では安全運転を徹底しているが、「私のために速く走って」とその女性にいたずらっぽく言われると、 口元と目だけで「ニヤッ」とし、その直後、目にも止まらぬ早さでギアチェンジ、アクセル全開で畑道を突っ走る。 この時、見ていた女性観客は全員恋に落ちたに違いない。

映画全体を通しては、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントの運命的な戦いを描いている。 お互いを嫌いつつも尊敬し合う。人間離れした才能を持つ二人にしかわからない親密で不思議な関係。 それを黙って見守る美しい女性たち。

「男映画」と言われれば、まあそうだが、この映画の世界を欲しているのは必ずしも男だけではない。

(2014.2.27)

---”鑑定士と顔のない依頼人”についての会話---


鑑定士と顔のない依頼人

(T)
古い映画館だったよ。楽天地シネマズっていうところで見たんだけど。松戸の映画館によく似てた。

映画については、限りなく4に近い3.9だと思った。ジェフリーラッシュ、その他俳優陣はしっかりちゃんと仕事したと思う、今一つなのは台本!手袋、誕生日をクローズアップさせた訳をきちんと説明出来ていない(誕生日はクレアに花束をプレゼントしたことをより惨めにしようとしたのかもしれないが)。

あと、犯人グループが映画関係者というのも簡単すぎる。愛も偽装できるというオチが俳優だからです!っていうのは何となく腑に落ちない。あそこまで映像をきれいにしたのに、俳優もハマってたのに、ミステリーとしては、うーん…と言う感じ。

付け加えれば、あそこまで主人公を陥れる動機がわからない。金目当てなら、仕事の邪魔をなぜする必要があったのか。 ぜひお父さんの意見を伺いたい!

(N)
まず映像です。っていう映画だと思った。ミステリー仕立てにしたのは観客を引っ張るための手段と見た。あそこまで陥れる理由はないんだけど勢いだろう。画家も長年儲けさせてもらっていたわけだし。 だけど3点台というのは納得出来ない観客が多いんだろう。

(T)
なるほど。映像映画と思えば素晴らしいと思う。汚いところが一点もないのは当たり前だが、絵画、美術品は博物館にいるような気分で見れた。しかも実際に行くよりより近い特等席で。最後プラハの街にも行けたし。ジェフリーラッシュが出ているから期待値が高すぎたかな。

(N)
それから最後の喫茶店の映像ね。何かこの映画全体を象徴しているような気がした。

(T)
あのシーンはどう読み取った?

(N)
あれはこの映画全体が機械仕立てに出来上がっていて、主人公もその流れに逆らえない。ということを言っているんだと思う。人生もある意味でそういうもんだろう、と監督が言っているように思えた。

(T)
なるほど!そういうことか、 私は主人公の席の時計だけが止まってるように見えたから、彼だけ止まってしまったのかと思った。意味はよくわからなかった…

(N)
主人公の席の時計が止まっていた? それは見ていなかった。そっちの方が正しいのかもしれない。まあ、でもいろんな見方ができるということはそれだけ深い映画だといえると思う。

(2014.1.12)

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