村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の冒頭、主人公は「泥棒かささぎ」の序曲を口笛で吹きながらスパゲティをゆでていた。
「どろぼうかささぎ」序曲はコンサートの開幕にふさわしい華やかでワクワクする楽曲だった。口笛で吹くには何回も聴いていなければ無理のようだが。
「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調」は大林宣彦監督の尾道ものに出てくるような懐かしい曲想だ。特にチェロ独奏の部分では胸の奥のノスタルジーをくすぐる。
チャイコフスキーの交響曲第4番は楽しみにしてきた曲だ。第5番の交響曲と並んで好きな曲だ。
チャイコフスキーの交響曲は1番から6番まで愛称がついているが、なぜか4番と5番は付いていない。ちなみに1番「冬の日の幻想」、2番「小ロシア」、3番「ポーランド」、4番5番はなくて6番「悲愴」となっている。
4番は管楽器による華やかな曲想から始まった。きらびやかな金管楽器がここぞとばかりに吠える。ここで「?」と思った。ちょっとずれている。しようがないのかな。管楽器奏者が一番緊張するところだ。観客も緊張する。完璧はない。 第2楽章の比較的静かな曲の途中で観客の声がする。何やらもめているようだ。楽団員の集中も一瞬途切れたようだ。何とか乗り切ってほしい。
第3楽章、弦楽器がすべてピチカートで通す印象的な楽章。この交響曲の特徴的な楽章だ。ちょっと一部のヴァイオリンの音が浮いてるかな。
最終楽章、シンバルのおじさんが後ろでかまえる。フィナーレだ。始まったばかりのところでここぞとばかりに大音声でシンバルが鳴る。そのあとは連打に次ぐ連打。今までの「?」の部分を俺が追い払ってやる、と言わんばかりだ。こちらの胸も高鳴ってくる。終わり良ければすべて良しだ。
かくしてチャイコフスキーの交響曲第4番ヘ短調は終わった。実に華やかでいい曲だ。
観客席からは割れんばかりの拍手。 コンサートマスターの第一ヴァイオリンの女性は蒼ざめた顔でぼう然と立っていた。
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