落語界のサラブレッドともプリンスともいわれている柳家花緑の独演会である。
1席目は小三治顔負けの長いまくらから「明烏」に入っていった。オーバーアクション的な表情で吉原の花魁の世界を切り取って現代の私たちに表現して見せた。このように演れば今では誰も経験のない世界が手に取るようにわかる。古典落語は現代に通用しない前世紀の遺物では決してない。
2席目は前座噺「つる」。15分くらいの短い噺である。これは単純な噺で前座がやったのでは面白くならないだろうな、と想像がつく。花緑がやるとつーっと来てポンととまる首長鳥の話が無性におかしい。
3席目は歌舞伎噺「中村仲蔵」。力の入った噺だ。花緑は途中わざと力を抜いて解説を入れる。観客の緊張が長時間継続するのを嫌ったのだろう。
芸談「中村仲蔵」は演る噺家によってはウエットな人情噺になったり、お説教くさい話になったりするが、花緑はそのどちらにもならないように演る。このへんのドライな軽さが花緑の持ち味になっている。力演するが重くならない、という微妙なバランスでひとつの噺を完結する。
まくらで自虐的に言っていた「苦労しらずのお坊ちゃん」の強みではなかろうか。
前座の圭花は名前はきれいだがスキンヘッドのこわもてのお兄さんであった。
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