この長い夜は高橋誠カルテットから始まった。
ジャズ・ヴァイオリンというのはあまりやる人がいない。このグループはメインストリームのジャズではなく、ジプシー音楽または東ヨーロッパの音楽を目指しているようだ。メンバーはエレクトリック・ヴァイオリンの高橋誠、フラメンコ・ギターの高木潤一、パーカッションの海沼正利、ピアノの伊藤志宏とそれなりの楽器構成だ。計4組が出演するジャズ・フェスティバルのトップバッターは難しい。観客をどういう風にコンサートに導き入れるかが決まってしまうからだ。その点でこのグループは"つかみ"に成功した。いきなりガチガチのモダンジャズでは長丁場のコンサートでは観客の集中力が続かない。ヴァイオリン特有の優雅な雰囲気で観客はゆったりと今夜のコンサートに入ることができた。
「起承転結」でいえば「承」の部分を受け持ったのは土岐麻子(vo)とSchroder-Headzのグループ。ピアノトリオSchroder-Headzとして演奏したのははじめの一曲だけだったが、このピアノ、ベース、ドラムスのオーソドックスなトリオはきびきびしたモダンジャズを繰り広げた。ボーカルの土岐麻子が加わったグループは観客をモダンジャズの世界にいざなうのにふさわしい選曲だった。土岐はビル・エバンスの「ワルツ・フォー・デビー」に日本語の歌詞をつけて歌った。次に派手なドラムスの音から熊本民謡の「おてもやん」、オーソドックスなジャズのスタンダードと観客を飽きさせない構成でみごとに二番バッターとしての仕事をした。
三番バッターは休憩を挟んで山中千尋トリオ。ずっとニューヨークで活躍している山中はこのコンサートのために来日した。本日のお目当てだった。
はじめの一音が鳴ったとたん、期待通りの演奏をしてくれると確信した。すべての楽器の中でピアノだけはホールにあるものを使う。同じ音がしそうなものだが演奏者によって驚くほど音が違う。今日もそれを実感した。小柄な細い山中が弾くピアノの音は分厚く強い。自作の曲を中心にメインストリームのモダンジャズを弾きまくった。まさに今日のジャズコンサートの核であり芯であった。
今日のトリは御大日野皓正。日野皓正は昔からクインテットの演奏が多い。ピアノ、ベース、ドラムス、エレクトリックベースに自分のトランペットというこの編成が好きなのだろう。
地ならしが十分できている道路を爆走するように日野のトランペットは吼えまくった。72才になった日野の音は以前より図太さを増していた。日野の次男日野賢二はまるでギターのように軽やかにエレクトリックベースを弾き鳴らした。ワクワクするほどのドライブ感だった。
今日のコンサートは出演者の質、構成、選曲すべてにおいて最高水準だった。真夏の夜の3時間半、良い時間を過ごす事ができて幸せだった。
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