山下洋輔は毎年桜の季節になると月島のトリトンスクエアにやってくる。
私もこの十年くらいほとんど毎年来ている。桜の咲く気持ちのいい日が多かった。今日も桜が満開だった。
ここのコンサートの特徴はPAを使わないということだ。生のピアノの音が聴ける。
これが生? と思うほど大きい音量で聞こえる。グランドピアノというのはそういう風に設計されたものなのだ。
スピーカーを通していない音は演奏者の意図を忠実に観客に伝える。それが楽しみで毎年来ている。
一曲目の”アイ・リメンバー・エイプリル”は毎年最初に演奏する曲だ。春の柔らかい空気を伝える、コンサートの初めにふさわしい曲だ。
二曲目の前に長い説明があった。”九尾の狐”と”七つの命を持つ猫”の話だった。”セブン・テイルズ・キャッツ”はピアノの上を猫が転げまわるような可愛らしい曲だった。
一セット目の終わりの曲”チュニジアの夜”は素晴らしい出来だった。思わず体が動いてしまうほどの躍動感を感じた。去年二か月入院した人とは思えない。ピアニストというヒトはピアノの前に座るとすべてのことを忘れてしまうのかもしれない。
二セット目の最初の曲”ジェントル・カンバセーション”は魅力的な曲だった。この曲を主題歌にした映画がいずれ公開されるという話だ。八千草薫、仲代達矢主演ということだ。
”バッハ「無伴奏チェロ協奏曲第一番プレリュード」”はこれがピアノ一台の音なのか? と思うほど厚みのある音で演奏された。バッハはこんな素晴らしい曲を作曲したのか、と帰宅後ヨーヨー・マの”バッハ「無伴奏チェロ協奏曲第一番」を聴いてみたがそれほどでもなかった。この曲に関してはヨーヨー・マより山下の演奏のほうがすぐれているのではないか。 毎年最初と最後の曲は決まっている。最後は”ボレロ”ということになっている。感心するのは”ボレロ”の表情が毎年違うことだ。山下にいわせれば同じ演奏は二度とできない、というだろう。我々観客は”ボレロ”で山下のテクニックおよび精神面のの向上を知らされることになる。
アンコールの”さくらさくら”は桜の花びらが一枚一枚散るような可愛らしい曲になっていた。中ほどで大魔王が暴れまわるような表現があったが、最後は花びらが無事に着地して本日のコンサートは終わった。
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