「看板のピン」はサイコロ博打をやろうとする仲間のところへ引退した兄貴分がやってくる。わざとサイコロを壺からはずしておいて、見えないふりをする。それを見た仲間たちはすかさず転がったサイコロの目に張る。兄貴分はそのサイコロをふところにしまい、壺を開けると・・・。兄貴分は博打なんかやめるんだよ、と言って去る。
それを見ていたバカな手下は真似をして・・・。という話。
2番手に出てきたのは前座の三遊亭げんき。噺は「手紙無筆」。前座が2番手に出てくるのは初めてだ。でもこれは兼好も客も一休みできるというのでいいアイデアだと思った。
次は今日の会で唯一決まっていた演目「花見酒」。桜の季節にちょうど良い噺である。長期予報だと桜が開花している時期だったが、残念ながら寒の戻りで肌寒く、まだ咲いていない。
「花見酒」は初めて聴く噺だ。ふたりの男が酒屋から酒を預かり、花見で賑わう白鬚橋のたもとに売りに行く。途中喉が渇いて一杯、また一杯と飲んでしまい、白鬚橋に着く頃にはへべれけになってしまう。肝心の酒はというと、一滴も残っていない。さて・・・。
ふたりの男がだんだん酔っ払ってくるところ、借りた10銭だまをやりとりするところ、酒樽をかついで行っては飲み行っては飲みするところ、兼好の演技は計算され尽くしていて、見事に決まっていた。
仲入り後は「不動坊」。男が大家さんの仲立ちで講釈師・不動坊火焔の未亡人・お滝と結婚することになる。今晩お滝がくるので銭湯に行って体をきれいにしてこようとするまでが前半。それを聞いた長屋の若いものたちがこの結婚話を壊してやろうと、不動坊の幽霊をでっち上げようとするのが後半。
夜になってお滝がやってくる。幽霊のふりをした噺家が天井からぶら下がってくる。さて・・・。
銭湯で男が見ず知らずの客を相手に愛の告白をする場面、長屋の若いものたちが屋根の上に登って噺家をぶら下げる場面、等々に兼好の演技力がフルに発揮される。筆者も含め観客は泣いたり笑ったりと忙しい。
最後はしっかり者のお滝の印象が残って、このふたりはいい夫婦になるな、と思わせてお開きとなった。
泣いたり笑ったりの2時間が終わってみると、兼好師匠は開口のまくらからトリまで「人間の幸せとは?」というテーマで噺を進めていたように思った。
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