古典廻し  一覧へ


古典廻し

杉並区の築90年の古民家をそのまま使った会場・一欅庵ではほぼ毎月落語会が開かれている。会場は和風の部屋で、エアコンは設置されていないが、庭から入ってくる涼風のため、それほど暑いとは感じない。

観客は20人ほどで、席と席の間隔が広めにとってある。今回の出演者は立川笑二。演目は怪談噺3題となっている。

怪談噺のようなまくらのあと、「団子坂奇談」にはいった。まくらが結構不気味な話だったので、怪談噺としては拍子抜けするほど怖くなかった。

次はトリでやるかと思った「真景累ヶ淵 / 宗悦殺し」をもってきた。これがトリでないとすると、トリは何だろう。

皆川宗悦という盲目のあんまが小普請組・深見新左衛門へ借金の取り立てに行き、難癖をつけられて殺されてしまう。とてつもなく長い因縁話「真景累ヶ淵」の発端の部分だ。笑二は宗悦が深見新左衛門へ金を貸すところからじっくりと語る。ここをじっくり語ることによってのちに金を踏み倒そうとする深見新左衛門の理不尽さが引き立ってくる。

古典廻し 出し物

宗悦を殺した呵責からアル中になった新左衛門が、宗悦が生き返って自分を苦しめる幻影を見て、妻を斬り殺すシーンは鬼気迫るものがあった。現代でも薬やアルコールによって妄想を膨らませ、理不尽な犯罪を犯す者がニュースになったりするが、その構造は同じだろう。弱い自分と向き合うことができず、自暴自棄になって思考停止してしまうのだ。

「真景累ヶ淵」は原作・三遊亭圓朝の大ネタである。全部やると数時間かかるので全部やることはまずない。高座では「宗悦殺し」と「豊志賀の死」くらいしかかけられることはない。NHKの大河ドラマで1年くらいかけて全部やったらおもしろいのでは、と思うのだが。

仲入り後は寺の小僧さんが二人で会話をしているシーンから始まる。寺の場所は富山県の高岡である。この設定の噺は聴いたことがない。小僧さんが二人、石段の上のような高いところから下を見ていると、江戸から流れてきた夫婦者のうちの夫の方がこちらへ向かってくる。どうやら和尚のところへ来るみたいだ。

夫婦はどういう経緯で江戸から山陰の街まで流れてきたのか。和尚は夫婦にどういうふうに対処するのか。原作は三遊亭圓朝の「札所の霊験」という話である。

笑二の噺は原作をだいぶ変えてある。原作は圓朝らしい因縁話であるが、笑二のは原作を切り詰めて、一幕の舞台劇のようにしてある。そのまま語ればダレてしまいそうな話を、枝葉を切り詰めて、和尚の悪党ぶりを際立たせている。この辺は笑二の独創なのか、師匠の工夫なのか?

噺の終わりに、寺の軒先で風鈴のようなものが揺れているが、このシーンは原作にはない。

噺が終わってまわりを見ると、会場の座敷はすっかり暗くなっていて、演者の上方のペンダントライトと脇の行灯風の照明がぼんやり光っている。庭はすっかり暗くなっていて、庭石風のライトだけが目立っている。約20人の観客はそれぞれにあたりを見まわしている。

 

(演目)
   ・団子坂奇談----- 立川笑二
   ・真景累ヶ淵 / 宗悦殺し----- 立川笑二
   ・仲入り
   ・札所の霊験(れいげん)----- 立川笑二

                   
(時・場所)
 ・2023年9月17日(日)
 ・16:00〜18:05
 ・一欅庵



<厩火事.com>
Copyright(C) 2012 Umayakaji.com ALL rights reserved.