開口一番は柳家ひろ馬の「好きと怖い」。これは上方版の「まんじゅう恐い」である。江戸落語ではどちらかというと前座噺であるが、上方では真打がトリで語る噺になっている。江戸版よりも長尺で滑稽噺というより幽霊噺である。
例によって長屋の連中が暇つぶしをしているシーンから始まる。好きなものは何か、嫌いなものは何かをひとりひとりが言ってゆく。そのうちに大家さんがきて話に加わる。大家さんでも嫌いなもの苦手なものはあるでしょう、と話を振られる。そこで大家さんが話したこととは・・・。ゾーッとするほど怖い話だった。
300席近い座席は完売。さすが今一番旬な落語家・桂二葉さんである。華やかな出囃子「いっさいいっさいろん」に乗って出てきた二葉さんはスッキリした長身の着物姿である。
最初の噺は「青菜」。大店の旦那さんの上品さと威勢のいい植木屋さんの会話。植木屋が上品な振る舞いを自宅へ持ち帰って、実行しようとするが・・・。やればやるほど滑稽になっていくという噺。
植木屋がお屋敷で冷えた柳蔭(やなぎかけ)をご馳走になる噺で、元は上方落語である。二葉は独特の甲高い声で旦那と植木屋を演じるが、女流落語家がやっているという不自然さがない。むしろこっちの方が自然なのではないかと思えるほど自然に聞こえる。
ふたつ目の噺は古典落語の定番「らくだ」である。
調べてみたらこの噺も上方落語の演目であった。もともとの題名は「駱駝の葬礼(そうれん)」といった。この話は長いので途中で切ってサゲをつけておしまいにするケースが多い。それでも30分以上はかかる。
二葉は途中で切らないで最後までやった。最後までやると長いということもあるのだが、屑屋が次第に酔っ払っていくシーンとらくだを樽に入れて焼き場へ行くシーンの二つの話になってダレるからということもあるのかもしれない。
二葉は少しもダレることなく最後まで語り切った。
以前から女性落語家が大家さんや旦那を演じることに不自然さを感じていた。女性の落語家さんもそこのところをなんとかしようとしてそれぞれ工夫しているようである。二葉はごく自然にそれをクリアしている。面白ければなんでもありだろ、と開き直っているようでもある。
スッキリした着物姿で出てくるが、語っているうちにそれが屑屋の粗末な着物に見えたり、願人坊主のボロボロの着物のように見えたり、旦那の上等な着物に見えたりする。二葉は芸の力はジェンダーの違いを簡単に乗り越えてしまうことを実証してみせた。
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