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古典廻し チケット

会場の一欅庵は中央線西荻窪駅からにぎやかな商店街を通り抜け、五日市街道の信号を越えてすぐのところにある。外見は少し大きめの民家である。玄関先と庭には太い樹木が生い茂っている。建物は築90年の有形文化財になっている。

会場に入ると低めの椅子30脚ほどが並べてある。全自由席なので、前から2番目の廊下寄りの席をとった。廊下を隔てた緑の多い庭から涼しい風が入ってくる。文化財なので客席に冷房装置はない。

開演前には座席は全て埋まっていた。お囃子のテープの音と共に立川笑二が入ってきた。客席は暑いけど、楽屋は冷房が効いていて涼しい、と笑わせた。

古典廻し 高座

噺は「まんじゅう怖い」。前座噺のひとつだが上方では大ネタになっている。演者によってどのようにも料理できる噺である。笑二は軽く、滑稽に演じた。

次は雷門音助の「転宅」。古典落語の定番である。間抜けな泥棒としたたかなお妾さんの騙し合いは初めから勝負は目に見えている。音助は泥棒とお妾さんの表情を独特のオーバーアクションで表現する。

音助と笑二はほぼ同期の入門で今年13年目に入る。ふたりともそろそろ真打になろうかという経歴である。真打に上がる手前くらいの落語家が一番勢いがある。

一欅庵 庭

仲入り後の噺は2題とも初めて聞く噺だった。音助は「麻のれん」、笑二は「反魂香」。笑二の「反魂香」は途中から従来の噺とは違ってくる。

「麻のれん」はお屋敷出入りのあんまの噺。強情な性格のあんまをどういうふうに表現するかが決め手となる噺。音助は主人に迎合しながらも、できる範囲であざとく自己主張しようとするあんまを独特のオーバーアクションで演じていた。

「反魂香」はお香を焚くと煙の中から死んだ女房が現れるという噺。八五郎は反魂香と間違えて反魂丹を買ってしまい、煙の中から死んだ女房の代わりに隣のおかみさんが現れるというのが一般的な筋である。

笑二の「反魂香」はそうではなかった。

一欅庵

反魂香は体の一部からつくる。隣の坊主が片腕だったのは死んだ女房に会うために自分の腕で反魂香を作ったためだ。八五郎は3年前に死んだ女房に会うために自分の体の一部を提供する。もう提供するものがなくなった時に八五郎が取った手段は・・・。あの「反魂香」はかなりブラックな話に変わっていた。

八五郎が坊主に片腕を切り落とすかどうかを迫られるシーンから、一瞬で隣の熊さんが八五郎の長屋を訪ねてくるシーンに切り替わる。その時の八五郎はすでに体のほとんどを提供し尽くしてしまっている。この場面転換の速さ、省略の見事さは落語独特のものだ。もっともへたな落語家はズルズルと途中経過を話してしまい、観客の興味を失わせてしまうのだが。

 

(演目)
   ・まんじゅう怖い----- 立川笑二
   ・転宅----- 雷門音助
   ・仲入り
   ・麻のれん----- 雷門音助
   ・反魂香----- 立川笑二

                   
(時・場所)
 ・2023年6月18日(日)
 ・14:00〜16:05
 ・一欅庵


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