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こはるの冬休み

立川こはるは2023年5月5日に真打に昇進し、立川小春志(こしゅんじ)を名乗ることになった。入門してから16年かかった。今日は真打昇進が決まってから初めての独演会である。

前座は立川談笑の5番弟子、東京都文京区出身の笑王丸。演目は「山号寺号」。金竜山浅草寺のように寺には山号がつく。山号と寺号を使ったトンチ問答のような噺。いくらでも長くできるし、いつ終えても良い。こはるが真打に昇進するのをサゲにして、こはるさん小春志(こしゅんじ)で終わりにしてみせた。

笑王丸は前座だが話しに勢いがある。笑いをとるセンスが身についている。

こはるは「黄金の大黒」のまくらで真打昇進の内輪話をした。立川流では真打に昇進しても二つ目の時の名前をそのまま使うことが多い。初めにいただいた名前を自分の力で大きくしていく、ということである。ただ、こはるは色々な意味で名前を変えたいと師匠に申し出たそうだ。最終的に小春志(こしゅんじ)という名前になった。師匠の談春がつけてくれたそうである。

演目

「黄金の大黒」は孫が黄金の大黒を土の中から掘り出した記念に、大家さんが長屋の店子たちにご馳走を振舞うという噺。真打昇進祝いにふさわしい噺である。

「お見立て」は廓噺である。花魁の役は得意でないだろうと思われるこはるがどのように話を展開するのかを楽しみに聴いた。花魁の喜瀬川よりも杢兵衛(もくべえ)大尽と妓夫の喜助をメインにして組み立てていた。

滑稽噺2題のあと、休憩をはさんで今日の本題「ねずみ穴」が始まった。

約1時間の熱演であった。

父親から相続した財産をうまく使って大店を構えるまでになった兄と、酒と博打と女に使い果たしてしまった弟の確執を息づまるような会話で表現していく。ほとんど兄と弟の会話で成り立っている噺を頭の中のスクリーンに再現できるのはおとなの客に限られる。

兄が良い人間なのか、悪い人間なのかをあからさまに表現したのではこの噺の奥深さは出てこない。「夢」を境に繰り返される兄と弟の微妙なニュアンスの違いをどのように表解するのかが、落語家に負わされた課題である。

兄と弟の持つ依存と嫉妬が入り混じった微妙な関係性を女性の落語家が表現できるのか。この噺を今まで女性の落語家が取り上げることがなかったのはジェンダーのハードルが高かったためであろう。こはるが今回の独演会でこの噺を取り上げたのは勇気がいったろう。

兄の表現が単純になってしまったように思えた。弟が女房をもらい子供をもうけて大店の主人になったのは自然なことである。大店の主人である兄がひとり者であることに注意が必要である。この兄は一筋縄ではいかないひねくれ者の可能性がある。そういう兄と弟の関係性を女性が理解し、表現するのは大変なことだろう。兄の表現が単純になってしまったのは演者が女性だからなのか、それとも今後の研鑽であの兄を手の内に入れて見せるのか。目を離すわけにはいかない。

兄が弟を引き留める時、おまえの屋敷と蔵が焼けたら俺が建て替えてやる、という言葉を出し遅れたのと、土蔵の鼠穴を放っておくとそこから空気が入って中が燃えてしまう、というところを、そこから火が入るといったところなど、二、三ヶ所ミスはあったがそれは仕方がない。これから客の前で何回も語ることによって磨いていくものであろう。

 

(演目)
   ・山号寺号----- 立川笑王丸
   ・黄金の大黒----- 立川こはる
   ・お見立て----- 立川こはる
   ・仲入り
   ・ねずみ穴----- 立川こはる

                   
(時・場所)
 ・2022年12月9日(金)
 ・19:00〜21:30
 ・横浜にぎわい座


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