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こはると笑二の春の宵

前座前のこはると笑二のトークはマイクなしで行われた。会場が狭いのでそれでも十分な音量であった。

話は二人の近況から始まって、笑二が最近経験したおかしな話へと。その流れで以前一緒の部屋で暮らしていた兄弟子の吉笑とのますます変な話へと移り、とりとめもない。テレビやラジオでは絶対放送できない内容に客席は一気に温まった。

まずは前座の柳家ひろ馬で「道具屋」。ひろ馬は1992年生まれの30才、2019年に柳家小せんに入門し、2021年に前座になった。2年間見習いをやっていたことになる。前座になっても二つ目になるまでは無給だから落語家になるのも楽ではない。

「道具屋」は与太郎が試しに道具屋になってみたら・・・、という軽い噺。ひろ馬は与太郎を軽妙に演ろうとするのだが、その意図が透けて見えてしまう。3年間落語三昧の生活をしていてもプロの芸というわけにはいかない。だが何をやっても同じかもしれない。筆者がやっていた技術職も5年で一人前。客先に安心感を与えるには10年くらいやらないと物足りない。10年くらいの経験が必要なのはどの職業でも同じかもしれない。

2006年に談春に入門したこはるは、今年16年目の中堅どころだ。安心して聴くことができる。「一分茶番」(別名 : 権助芝居)では軽妙に「町内会の素人芝居の世界」を演じきった。

出し物

次は笑二の「百川」だ。笑二のキャラは田舎者の百兵衛にピッタリだと思ったら、何もしなくても百兵衛になっていた。「笑点」に笑二がいたら面白いかもしれない。

仲入り後は笑二の「お菊の皿」。これも滑稽ものだ。怪談「番長皿屋敷」を落語化すると、こんなに面白い話になる。

トリはこはるの「らくだ」。まくらなしで丁の目の半次がらくだの死体を発見するところから始まる。どうなるんだろう。よく知った話をこはるがどう料理するのか楽しみだ。創造的な噺家さんは聴き手にワクワク感を与えてくれる。

50分近い大ネタをこはるは見事に演じきった。クズ屋が酔っ払ってクダを巻くシーンが少し長いと感じたが、それ以外は畳み込むような調子で客をとりこにした。

談志以来の伝統か、こはるもらくだを単純なならず者にしない。談志は雨の中に(たたず)むらくだを描いて、その孤独感を表現した。

立川こはる

こはるは酔っ払ったクズ屋にからまれた丁の目の半次が泣き出すシーンを加えた。ならず者の半次は同類のらくだの胸の内をわかっている。子供の頃からはぐれ者だったらくだは親愛の表現の仕方がわからない。「このやろう、もう二度と来るんじゃねえぞ」というのは「ありがとう、また来てね」という意味なのだと。からかわれたり乱暴されたりしても見放さなかったクズ屋を見て、らくだも良い友達を持った、と半次はうれし泣きをする。

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それって談春のことじゃない。こはるはらくだに師匠談春の姿をかぶらせていたのかもしれない。


 
(演目)
   ・トーク----- こはると笑二
   ・道具屋----- 柳家ひろ馬
   ・一分茶番----- 立川こはる
   ・百川----- 立川笑二
   ・仲入り 
   ・お菊の皿----- 立川笑二
   ・らくだ----- 立川こはる

                
(時・場所)
 ・2022年4月23日(土)
 ・18:00〜20:40
 ・なかの芸能小劇場


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