まん延防止等重点措置発令中のコンサートになっにもかかわらず、客席は3階までほぼ満席であった。
大西順子はここ数年間、毎年1枚のペースでCDを制作している。過去何度か出た引退の噂を吹き飛ばす勢いだ。
現在ジャズの演奏の場はジャズクラブに限られており、以前のようにコンサートホールで演奏する機会はほぼない。今回第2部で演奏した若手のジャズマンたちが生計を立てる手段はジャズの演奏以外なんだろう。
トリフォニーホールという、設備の面でも音響効果の面でも都内で最も条件の良いコンサートホールで、ジャズのコンサートが行われたことは非常に意義のあることであった。
暗い舞台に何気なく現れた大西順子は、チューニングをするかのようにポツリポツリと音を出し始めた。それに釣られて他のミュージシャンたちも少しずつ音を出し始めた。徐々に音が意味を持ち始め、曲をかたちづくる。客たちが居住まいを正し、聴く態勢を整え始めた。コンサートの始まりだ。
第1部は彼女の最新アルバム「Grand Voyage」の曲を中心に演奏された。常にジャズ界の先頭を走っている大西の作品だ。
ピアノは言うに及ばず、井上陽介はウッドベースを構造がまるで違うエレクトリックベースのようにスピード感豊かに弾く。吉良創太はドラムスがリズム楽器であることを証明するように演奏する。大儀見元はラテン系のパーカッションを現代ジャズと融合するかのように叩く。彼らの音は空間を埋め尽くすように密であった。
約1時間の演奏は息をする間も無く終わった。
休憩後は大西順子がプロデュースした若手ミュージシャンたちによるビッグバンドの演奏である。
曲は全て彼らが作曲した作品である。ここには商業主義とは無関係の最新の日本のジャズがあった。
コンサートが終了すると、頭の中からロシア軍のウクライナ侵攻や物価上昇などの世俗的なものはすっかり拭い去られていた。雨の後の湿った空気、スカイツリーにかかる霧、錦糸町の街の明かりが新鮮に感じられた。
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