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三遊亭兼好・三遊亭萬橘 二人会

かめありリリオホールは全国のホールの中で客席の傾斜が一番急な会場である。演者からすれば圧迫感が強いだろうが、観客からすれば舞台が見やすい。前の席にどんなに背の高い人が座っても、その人が帽子をかぶっていても全然影響を受けない。

今年落語を生で聴くのは2回目である。数少ない落語鑑賞の機会をリリオホールでもてたのは良かった。しかも演者は三遊亭兼好と三遊亭萬橘という実力者たちである。

本日の前座は三遊亭好二郎、兼好の2番弟子である。二つ目になって2年目ということで、噺の仕方もこなれている。噺は「時そば」だ。誰でも知っている噺だけに演りようによって面白くもなり退屈にもなる。好二郎はその中間のあたりでうまくまとめた。

三遊亭兼好は長いまくらの後、「大安売り」。噺家から相撲取りになった男が道で知り合いに会う。今場所の結果はどうでした、と聞かれてかくかくしかじかと答える。テレビやラジオのない時代である。その答えの滑稽なこと。
長いまくらは今日の客の反応を調査するためである。今日は飯能の高校で学校寄席があったという。学校寄席は落語家たちの貴重な財源である。兼好は高校生たちの反応の無さにあきれていたが、夜の寄席のネタにするあたりは元をとっている。リリオホールの客筋は良い。兼好は安心して本題に入ったことだろう。

かわうそカフェ1

三遊亭萬橘のネタは「五人廻し」。まくらは大須演芸場に行った話と、昨日国立劇場の文楽の会と両国国技館にボクシング世界戦の井上尚弥を観に行った話であった。
乗ってしまったのは大須演芸場の帰りにかわうそカフェに寄った話からだった。かわうそに自由に触れるカフェということだが、ほんとかな、と思って検索してみたらほんとだった。萬橘はかわうそにやたらモテたという。かわうそが着物のたもとに入って無性にかわいかったのを興奮して話していた。

かわうそカフェ2

本題の「五人廻し」は全部やると1時間近くかかる、いわゆるトリネタだから、ここではどういうふうに省略するかが演者の腕の見せ所となる。萬橘は5人廻さず、4人まででオチに持っていった。5人目に主人公の喜瀬川が登場するのだが、それを登場させずにどうやって客を満足させるか。萬橘は絶妙な構成で花魁を登場させないでくるわものを演じて見せた。乱暴な口調で投げやりな態度は営業用で本来は冷静な計算と緻密な頭脳を持つ落語家である。

演目

仲入りの後は萬橘で「風呂敷」。間男を押し入れに隠した女房が、困って兄貴分のところに相談に来る。兄貴分は呆れながらもなんとかしてやる。酔っぱらいの亭主は間男に気が付かず、平和に解決したかと思いきや・・・。萬橘のオチは通常とは違っていた。気が付かなかったと見せていた亭主が実は気づいていた、という懐の深さ・・・。本来は緻密で繊細な萬橘の面目躍如であった。

トリは兼好の「抜け雀」。一見普通の「抜け雀」だが、ところどころ兼好独特の工夫があり、老獪な落語ファンを退屈させなかった。
工夫は、たとえば階段を登るときにただ登るのではなく、踊りながら登る。なぜ踊りながらかというと手すりが抜けかかっていたり、板が外れていたり、壁に穴が空いていたりするから踊るように身をかわしながらでないと登れないという具合である。

江戸時代から続いている古典落語は同じ筋の話を各時代のさまざまな落語家たちが伝えてきた。初めて聴く分には面白いが、同じ話を何度も聴くと飽きがくる。優れた落語家は客に先読みを許さない。そこに演者と客の緊張感が生まれる。今日の落語会は最後までこの緊張感が切れることがなかった。

それにしてもかわうその話は可笑しかった。兼好が「抜け雀」のなかに取り入れていたほどだった。


 
(演目)
   ・時そば----- 三遊亭好二郎
   ・大安売り----- 三遊亭兼好
   ・五人廻し----- 三遊亭萬橘
   ・仲入り 
   ・風呂敷----- 三遊亭萬橘
   ・抜け雀----- 三遊亭兼好

                
(時・場所)
 ・2021年12月15日(水)
 ・18:30〜21:10
 ・かめありリリオホール


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