良い落語家に必要なものは演技力(=表現力)と独自の語り口だと思う。真打と言われる落語家でもどちらかが欠けている人たちは大勢いる。
今日の二人、立川談洲と立川こはるは前座と二つ目という若手に属する落語家だがその両方を持っている。前座はまだ落語家ではないという説もあるが3日後の12月1日に二つ目に昇進する談洲はもはや前座の芸ではない。
今日談洲がやった「湯屋番」はいわゆる前座噺ではない。風呂屋の番台の上で一人芝居をする若旦那を周りの者が囃し立てるという噺は高度のテクニックを必要とする。この噺で観客の笑いを取るのは意外に難しい。「湯屋番」をやって、全然笑えない真打の噺を聴いたことがある。
今日の談洲の「湯屋番」は実に可笑しかった。
前半のこはるは二つ目間近の談洲を引き立てるためか、彼に本寸法の噺をさせ、自分は前座噺を二つ並べた。前座噺とは言ってもうまい落語家がやるといくらでも笑いが取れるのを何度も見ている。
「三人旅」と「つる」は軽い噺にも関わらずこはるの迫力に圧倒された。
トリは「小言幸兵衛」。本来長屋の借り手は3人出てくるのだが、こはるはふたり目でオチに持っていった。加速度がついたところでスピードを落とすことなく噺を終えたかったのだろう。
借り手を3人出すと2人目と3人目の間で噺の勢いを一旦減速せざるをえなくなる。それを嫌っての演出だったと思う。結果、独特のたたみ込むような語り口を生かすことができた。終わった瞬間、周りから起きた「凄いね」という歓声はそのことを証明していた。
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