中野駅前の路地を入ると急に小さなしゃれた店が現れる。食べ物屋と飲み屋が軒を並べている。狭い店にぎっしりと若者が入っている。
路地の突き当たりに今日の会場、テアトルBONBONがある。中央線沿線によくある小劇場である。中に入ると100人分くらいの座席がある。客席に傾斜があるので舞台は見やすそうだ。 観客は95%が20から30台の女性で男性は数える程しかいない。
あざやかな黄緑色の着物を着た昇々が登場し、まくらの後「ちりとてちん」を始めた。お世辞のいい職人が旦那と酒や料理について話し合うシーンから始まった。保存がきかないのでカビの生えた豆腐を持ち出したところで「ああ、このはなしね」と気が付いた。
そこから一気呵成に昇々のペースになる。小ネタで笑いを取りながら本筋でも笑いを取るという昇々独特のペースである。
一旦引っ込んだ後出てきたのは笑福亭羽光であった。プログラムにも出ていないので客席が「おやっ」という驚きと期待感に包まれた。羽光の噺は新作で「俳優」。 文章では説明できないくらい奇妙な噺であった。まるでマトリョーシカのような。
仲入り前の昇々の噺は「湯屋番」。先日風間杜夫で聴いたばかりだ。昇々の「湯屋番」は居候中の若旦那が主人に愚痴をこぼすシーンから始まった。落語では居候をしている若旦那の噺はたくさんあるのではじめは「二階ぞめき」かな、「船徳」かな、と思ったがお風呂屋でバイトをする話に乗ったところから「湯屋番」か、と気づいた。
昇々の「湯屋番」は独特のスピード感で繰り出すギャグがあまりにも速くて全部に反応するのが不可能なほどだ。番台の上に乗ったり降りたりして妄想の世界に浸る若旦那の様子に大笑いを通り越した苦しくなるほどだった。
仲入り後は新作で「忍びもの」。古本屋をやっているが実は伊賀のサスケという忍者が大坂城へ宝物を探しにいくという噺である。現代に忍者を登場させて宝探しをさせるというシチュエーションは無理があり、前の2つの噺ほどはおかしくならなかった。
帰りがけの中野の飲み屋街はますます繁盛していてどの店も満員であった。
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