演目は3月7日のさくらホールとダブってしまった。「鈴ヶ森」と「子別れ」は今仕上げ中なのだろう。それでも面白いものは面白い。
一之輔の2番弟子与いちは98年生まれの20才。昨年入門したばかりの前座さんである。噺は「子ほめ」。無難にこなした。
北千住のシアター1010は座席数701席だが半円形に配置してあるせいか200〜300席くらいの小劇場の雰囲気がする。すべの座席が舞台の一点に向いているので観客も見やすいが演者もやりやすいだろう。
この劇場での独演会は初めてだったらしくまくらが長かった。まくらで観客の雰囲気を確かめたり、音声の状態とか自分の居心地を確かめたりしているのだろう。
前半は「鈴ヶ森」と「普段の袴」をやった。「鈴ヶ森」は間抜けな泥棒の噺、「普段の袴」は侍の真似をしていきがってみせる町人の噺で両方とも一之輔得意の滑稽噺だ。
後半は「子は鎹(かすがい)」と題していたがさくらホールの時は本来の「子別れ(下)」と題していた。何か思うところがあるのだろう。
古女房と子供を追い出して花魁(おいらん)と一緒になった大工が後悔するが後悔先に立たずというやつだ。3年ぶりに息子と再会した大工が息子に諭され、…。というお馴染みの噺。
「子は鎹(かすがい)」という古い言葉であるが現在でも十分通用する夫婦の状態を一之輔は軽妙に演じた。前半はゲラゲラ笑っていた観客はここではしんみり。経験値の多い年配の客ほど感ずるところも多かったようだ。
立川談志は著書の中で人生で経験することは全て古典落語の中にある、と述べている。確かにそうだと思う。
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