730席ほどの会場は満員である。実力者柳家三三と若手ナンバーワンの春風亭一之輔の二人会である。
開口一番は立川らく兵、立川志らく門下の劣等生で一度破門になっている変り種である。演目は「強情灸」、おなじみの噺である。
山盛りのお灸を腕に据えて火をつけどのくらい我慢できるかという噺である。らく兵は痩せ我慢の表情は良かったが声がまるで届いてこない。何を言っているのかわからない。
らく兵は何度か聴いていて滑舌の悪いのは承知しているがこれほど聴き取りにくいのは初めてである。会場の音響が悪いのだろう。
一之輔はどうなんだろうと思っていたらそれほどでもない。らく兵の滑舌が悪かったのだ。
一之輔の噺は「鈴ヶ森」。間抜けな追い剥ぎ二人が暗闇の鈴ヶ森で旅人を襲おうという噺である。襲うつもりが逆に脅かされ…、という間が抜けた噺。一之輔のこういう噺はめちゃくちゃおかしい。会場大爆笑である。
前半のトリは三三で「明烏」。古典落語の名作である。真面目すぎるほど真面目な若旦那を悪い友達が遊郭に誘う。嫌がる若旦那を無理やり花魁のいる部屋に放り込み…、というお馴染みの噺。
三三は流れるように噺をつなぐ。有名な甘納豆を食うシーンもたっぷりやってくれた。手についた砂糖をはらうところなど細かい演出もみせた。
仲入り後は再び三三で「しの字嫌い」という前座噺をやった。10分位で終えてトリへ。
トリは一之輔で「子別れ(下)」。前半の噺はあらすじだけで終わりにして深川の材木を見にいくシーンから始まる。
材木を見ていると向こうから子供が3人ばかり走ってくる。よく見ると真ん中の子は3年前に別れた自分の息子だ。「おいおい亀じゃないか」と呼びかけるところからこの長い噺は始まる。
いつもながら一之輔の子供はうまい。10才くらいの子供を持っているからだろう。自分の子を研究材料にしているに違いない。
笑わせて泣かせて泣かせて笑わせて…。一之輔の術中にはまり込んだ40分間は至福のときだった。
心地よい涙と笑いに包まれながら会場を後にした。
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