開演予定時刻より15分早く前座が登場した。春風亭一花、今日出演の春風亭一朝師匠のお弟子さんである。マイクなしで「牛ほめ」を元気に語った。
プログラム上では初めの出演者柳亭市童は「弥次郎」をやった。おしっこが凍ったり火事が凍ったりする不思議な世界の噺だ。古典落語にも色々な世界がある。
次は翁亭社中の「太神楽」。顎の上やおでこの上に棒を乗せてその上に茶碗を乗せたり飾りを乗せたりする。まじかで見るとハラハラする。
次は柳亭こみちで「反対俥」。威勢のいい俥引きが走り出したら止まらない。あっという間に青森の五所川原まで行ってしまう。元気な俥引きをこみちは体を揺すったり飛び上がったりして表現する。そのまえの今にも死にそうな俥引きとの対象が見事だった。今年9月に真打ちに昇進した。2児のお母さんでもある。
蜃気楼龍玉の「たらちね」は柄に合わない噺だった。龍玉には怖い噺が合っている。
アサダ二世の奇術は年季が入っている。アダチ龍光の弟子だけあって奇術と話術が半分ずつである。寄席の常設館でないとこういう色物は見られない。
柳家小ゑんは新作の「ぐつぐつ」。おでんがグツグツ煮えながら話し合ったり喧嘩をしたりする。落語ならではのヘンな話である。
仲入り前のトリは桃月庵白酒の「粗忽長屋」。古典落語の定番である。聴き飽きるほど聴いた噺だがおかしい。白酒の長屋の住人は実におかしかった。
仲入り後は林家楽一の「紙切り」。これも寄席でしか観られない芸である。客から題をもらいながら即興で切っていく。あらかじめ練習しないでうまく切るものだ。
春風亭一朝は「転失気」。まくらで「イッチョウ懸命やります」といったり、「オナラの話」をふったり、この師匠はシャレというものをわかっているのか? と疑問を感じた。
橘家文蔵は「道灌」。今年真打ちになる前に落語カフェで聴いた時は元気の塊だったのだが、今日は見違えるように元気がなかった。真打ちになって気取っているのでなければいいが。
立花家橘之助は「浮世節」。みごとな三味線だった。これほど見事な三味線の演奏を聴いたのは初めてだ。
トリは隅田川馬石の「掛取り」。借金取りをうまいことを言って追い返す噺。あの手この手を使って追い返すやり方に芸がないと同じことの繰り返しになる。馬石はもう少しメリハリが欲しかった。
寄席はこれだけ大勢の芸人が出てこれだけ長時間やって、入場料2,800円というのは非常に安上がりな娯楽だと思う。
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