開場の10分前に着いた。客が誰もいないのでオヤっと思った。自分が先頭というのは居心地が悪いものだ。少ししたら誰か来たのでホッとしたら中へ入っていった。あれ、わさびだ。普通のかっこしているからわからなかった。
7時15分ころには20人くらいになったのでよかった。落語を楽しむにはこのくらい観客がいなくては…。
はじめは軽いまくらから"ざる屋"へ入っていった。前回のアブラゼミの噺以来わさびは新作の噺家だと思っていたから、古典もやるのか、と思った。
"ざる屋"は威勢のいい職人の話でわさびの柄にぴったりだ。
ちなみにわさびは日大芸術学部油絵科出身で左のパンフレットと右のプログラムは彼の作品だ。
プログラムの絵は今日のネタおろし"井戸の茶碗"の仏像だ。バギーカーには"小判"もおいてある。たぶん50両あるんだろう。
"ざる屋"の次は三題噺。前回観客からもらったお題をもとにわさびが作った噺だ。
お題は"ピカソ" "引越し" "赤ちゃんがえり"。この三つの言葉を織り交ぜてわさびが作った噺は…。
前回聴いた"アブラゼミ"同様、思い込みと強引なこじつけで見事な噺になっていた。子供がピカソの"泣く女"になるシーンでは涙をこらえることができなかった。子を持つ親なら誰でもここでジーンとするのではないだろうか。
それにしてもピカソと引越しをこんな風に結び付けるとは。日大芸術学部出身はだてではない。
中入りに次回の三題噺の抽選をやった。観客が書いたお題をわさびが無作為に選ぶ。選んだ5枚の中から観客の拍手で3枚にしぼる。
今回選ばれたのは"お茶出し" "新秋刀魚" "流し目"の三題だ。次回の9月16日までに作らなければならない。これを53回やっているのだからたいしたものだ。
今日のトリはネタおろしの"井戸の茶碗"。三者三様の善意がぶつかり合って話がだんだん大きくなり最後は…、という噺だ。心温まる落ちで私の好きな話だ。
噺の途中で何回か詰まったりかんだりしたのはネタおろしのせいか。 だけど十分噺の中に入り込めた。若い侍が貧乏な浪人に施してやるという態度が見えると噺が嫌味になってしまうのだが、わさびが演じる侍はそのような態度がまるで見えずさわやかだった。
目の前で噺家が演じるのを観て前売り1,200円というのは安い。わさびもそのうち真打になって前売り2,000円になってしまうのだろうが。それでもこの環境で落語が聴けるというのは贅沢なことである。
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