台風が来ている。終日雨。会場は有楽町駅の真ん前よみうりホールである。
今日の会は前座も含めて総勢10人の出演者。何時までやるんだろう。入り口の案内を見ると16:00までとなっている。3時間か、寄席と一緒だな、だけど寄席と違って落語ばかりだな。
前座は柳家市若。「市」の字がついているから市馬師匠の弟子だろう。始まったばかりで客席はざわざわしている。何を言っているのかよくわからないまま終わってしまった。時計を見たら3分しか経っていない。
続いては神田松之丞で「鹿島の棒祭り」。以前東庄町で聴いた。「天保水滸伝」の中の「平手造酒」の巻だ。平手造酒が酒を飲んで大勢のヤクザを相手に立ち回りをするという派手な話だ。持ち時間が15分しかないので途中でちょうど時間になりました、と終わる。リズム感のいい松之丞の語り口に会場は一気に寄席ムードに突入した。
会場が適度に温まったところで登場したのが三遊亭兼好。今日の会では一番いいポジションだったのではないか。演目は「ひーふーみーよー、いまなんどきでー?」でおなじみの「時そば」。
最近乗っている兼好は軽妙に、しかも切れ味よく「時そば」を演じた。いわば手垢のついたような噺だが、一度洗い直して兼好流に仕立てて見ました、というふうで新鮮で面白かった。同じ噺を何度聴いても笑ってしまう、古典落語の醍醐味はそこにある。
軽妙で洒脱な兼好の後は桃月庵白酒。演目は「茗荷宿」。このひとは古典落語を歯切れよく正確に語る人だ。あまり脱線しない。兼好師匠がかきまわした後、会場を丁寧に整地する役をこなしていた。
ここで仲入り。
仲入り後のとっつきは三遊亭粋歌で「とんがりコーン」。女流では一番の個性派落語家である。現代社会を切り取って客の前にさし出す手際は見事だ。
「とんがりコーン」の噺も日常のたわいもない話から男女関係の機微をえぐり出し、まな板の上に乗せてみせる。改めて男女関係、夫婦関係について考えさせられた。
次は個性派春風亭百栄師匠。噺は「弟子の強飯」。相撲の親方が弟子をスカウトする、または野球の球団が選手をスカウトするのと同様に落語家の師匠が弟子をスカウトしたら、という変な噺だ。
落語家だけは弟子が師匠を選ぶというのが普通で逆は無い。それをやったらどうなる、という噺で、弟子候補が高校2年生で口調が六代目三遊亭圓生そっくりという。これはおかしかった。
続いては今日のお目当、春風亭一之輔。演目は「蝦蟇の油」。この噺は六代目三遊亭圓生のテープで聴いたことがあるが実演で聴くのは初めてだ。一之輔は得意のオーバーアクションで面白おかしく「蝦蟇の油」を演じた。最後に蝦蟇を食ってしまったのには驚いた。
この辺でそろそろ疲れて来た。聴く方も演者が変わるごとに頭の中のスクリーンをフル回転させるわけだから疲れる。ちょうどいい時間は1時間半から2時間程度ではないか。
白鳥師匠の「アジアそば」は面白い噺ではあったのだが、端正な話ぶりは一之輔のオーバーアクションの後では印象が薄い。
林家きく麿は初めて聴く落語家である。お相撲さんのような体つきの割には優しい声を出す。「お餅」は老人ホームで老人たちがお餅について少しずれた会話をするという噺である。ずれ具合が独特で笑ってしまう。
オーバーアクション、新作と続いたので柳亭市馬師匠が端正に「百川」をやり始めたのでホッとした。トリは正統派の古典落語で締めてくれた。
外は降り続く雨。3時間の落語の世界から地上に舞い降りた観客の群れは三々五々有楽町の街へ紛れ込んで行った。
|