松之丞ひとり  一覧へ


チラシ

イイノホールは新しくなった。2011年竣工とある。地下鉄千代田線霞ヶ関駅からエスカレーターでじかに入れるようになった。開放的な吹き抜けをエスカレーターで5階くらいの高さまで登っていく。ついたところに収容人数500人というこじんまりしたホールがある。席に着くと足元がゆったりしている。舞台が見やすいように前の席と重ならないようになっている。ここが落語の聖地イイノホールだ。

前座は春風亭一猿。演目は「弥次郎」。2014年春風亭一朝に入門とある。3年めにしては立て板に水の話ぶり、面白いところはそれなりにおかしい。才能があるのではないか。

松之丞は相変わらずだらっとした身振りで出てきた。イイノホールでの独演会を二つ目の身分でやらせていただいてと神妙なまくらを振る。そのあとはいつも通り軽妙な話で笑わせる。

開口一番は景気付けのためか「芝居の喧嘩」。何度聴いても面白い。喧嘩が盛り上がったところで「ちょうど時間となりました」となるのもお約束である。

サイン会

照明を暗くして「番町皿屋敷」になる。全部やると長い話になるらしいが今日はお菊さんが殺されて、その晩幽霊となって出てくるところまで。

仲入り後はまくら無しで「中村仲蔵」。

落語では有名な演目だが講談でもあるらしい。芝居の話だから講談の方があっているかもしれない。

歌舞伎の世界は今でもそうだが血筋がすべての世界である。成田屋の息子が成田屋になり、音羽屋の息子が音羽屋になる。生まれた時から決まっている。

血筋のない仲蔵が創意と工夫によってその中に割り込んでいくという話である。仮名手本忠臣蔵の五段目は今でも仲蔵の工夫でやることが一般的というからよほど優れた工夫だったのであろう。

自分の工夫を初めて舞台に掛けた日、場内はシーンとなる。しくじったと思った仲蔵は絶望する。最後までやってふらふらと表に出て歩いていると、自分の芝居を褒めている人がいる。ひとりでも褒めてくれる人がいるならと翌日もやる勇気が出てくる。

演目

5日目、たまりかねた客から「堺屋」という掛け声がかかる。今まで黙っていた客もつぎつぎと掛け声をかける。仲蔵は初めて自分の工夫が成功したのだと知る。

そのとき講談を始めて10年目にイイノホールで独演会をやる松之丞と仲蔵が重なって見えた。


 
(演目)
   ・弥次郎 ----- 春風亭一猿
   ・芝居の喧嘩 ----- 神田松之丞
   ・番町皿屋敷 ----- 神田松之丞
   ・仲入り  
   ・中村仲蔵 ----- 神田松之丞
                   
(時・場所)
 ・2017年8月26日(土)
 ・13:00〜15:30
 ・イイノホール




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