神田松之丞独演会  一覧へ


チラシ

まいどお馴染み前座のみのりだ。このひとはときどきつかえるがいつも一生懸命に読む。今日の演題は巌流佐々木小次郎から「道場破り」。

佐々木小次郎の道場に宮田なにがしが入門しにくる。入門のサインをする前にひとつお手合わせをしてもらいたいという希望に佐々木小次郎は演武を見せる。素晴らしい剣さばきです。入門の前に一度じかに教えていただきたいという。たっての頼みに小次郎は木刀を取り、相手と対峙する。「うむ、これは」と小次郎が唸ったところで「ちょうど時間になりました」となり、ひきさがる。さすが講談、客がぐっと食いついたところでお後に交代となる。みのりも腕を上げたようだ。

お目当松之丞は長いまくらで笑いを取りながら客の状態をうかがう。まくらも手馴れて来た。以前よくしていた客いじりもあまりしない。600人の観客を前にしての独演会は今回が初めてではないか。収容人数50人のらくごカフェを満員にするのが二つ目の夢です。今日は北千住の花火大会にもかかわらずこの会場に来ていただいたお客様に感謝いたします。と神妙に話していた。

この会場をいっぱいにしての独演会は真打クラスでも一部の人気噺家にしかできない。松之丞はあっという間にメジャークラスになった。落語と違い一般的に認知されていない講談でというのがすごい。

始めの話は「芝居の喧嘩」。これは侠客の元祖幡随院(ばんずいん)長兵衛もののうち芝居小屋での出入りの話である。闘犬のなにがしとか釣鐘のなにがしとかいう面白い名前の町奴たちと旗本崩れのやくざが芝居小屋で派手な喧嘩をするという話である。例によって盛り上がったところでちょうど時間になりました、となっておしまい。今日のメインは「お札はがし」である。

「お札はがし」は落語家の三遊亭圓朝作「牡丹灯籠」の中の話である。もともとは長い因縁話である。圓朝は25才でこの話を作った。全97章からなる大作「真景累ヶ淵」を20才の時に作っているから圓朝という人は話を作る才能が特別な人だったのだろう。

本作は表向きは「お露の亡霊に取り憑かれた新三郎の悲劇」であるが裏では「金に目が眩んだ下男の伴蔵と妻のお峰の変心の話」が進行するという二重構造になっている。「カランコロン」というお露のぽっくりの音が不気味に響く。

原作はこの幽霊話に、仇討や殺人、母子再会など、多くの事件と登場人物を加え、それらが複雑に絡み合う一大ドラマになっているそうである。一度全22章を通しで聴いてみたい。

本当はここで終わっても良かったのだろうがおまけにもう一話。「幽霊退治」。主人公は不破数右衛門、赤穂義士四十七士の1人である。

演目

「冬は義士、夏はお化けで飯をくい」というフレーズがあるが赤穂義士ものの講談ネタは200を超えるそうである。「幽霊退治」はその中でも珍しい話で二代目神田山陽が一度かけてこりゃダメだとお蔵入りした。ある時それを弟子の神田愛山に伝えた。神田愛山は一度かけてこりゃダメだとお蔵入りした。そして今回その話を神田松之丞に伝えた。

聴いてみるとなぜお蔵入りしたのかわからないほど面白い話だ。幽霊に取り憑かれた下男からそれを取り除いてやろうと不破が墓を暴いて死体をバラバラにする。そんな筋立てが嫌われたのかもしれない。松之丞がやるとバスター・キートンのスラップスティック・コメディのようでおかしい。一度封印された話も時代と演者が変われば復活する。まだそういう話は埋もれているのではないか。

講談はもともと長い話を少しずつ読んで客をずっと寄席に通わせるというものだった。テレビや映画のない時代だ。毎日寄席に行って続き物を聴くのが庶民の楽しみだった。今年、5月「村井長安」全12話を4日間の通しで聴いた。あれは一つの体験として貴重なものだった。講談界に松之丞というスターが出て来た今、ぜひ連続ものを復活させてもらいたい。


 
(演目)
   ・道場破り ----- 神田みのり
   ・芝居の喧嘩 ----- 神田松之丞
   ・牡丹燈籠「お札はがし」 ----- 神田松之丞
   ・仲入り  
   ・幽霊退治 ----- 神田松之丞
                   
(時・場所)
 ・2017年7月22日(土)
 ・19:30〜21:40
 ・かめあり・リリオホール



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