恒例となった桜の季節のソロ・コンサートである。このホールで20年続いているらしい。
ジャズのソロピアノの音をPAなしで聴けるのはこのコンサートくらいか。春らしい軽やかな曲「アイル・リメンバー・エイプリル」から始まった。スタンダードナンバーの名曲だ。ピアノの音が実に良い。年々ひとつひとつの音がクリアになって来るような気がする。
次は山下作曲の「やわらぎ」。五七五七七と聴こえる。和歌をテーマにした曲だ。
「早春賦」は日本の名曲だ。懐かしさが漂う。
「仙波山」と「砂山」は30年以上前からいろいろなやり方で演奏している。ソロもあるがトリオやカルテット、ビッグバンドでも演奏している。やり慣れた曲である。ひとつひとつの音が混じりっけなしの純粋な音だ。テクニックの進化を感じた。
休憩後はしばし雑談。奈良少年刑務所は山下の祖父山下啓治郎氏が設計した。完全な形で現存している唯一の建物だそうである。この建物を保存しようという動きがあり、山下が会長に祭り上げられた。近々工事が始まり、ホテルに改築されるそうだ。2013年に奈良を旅行した時に通りかかり、写真を撮った。レンガ造りの立派な建物である。
レンガにちなんで「ブリック・ブロック」という曲から始まった。この曲は奈良少年刑務所の中庭で演奏するために作曲したそうだ。「ブリック・ブロック」の時を刻むようなリズムから自然な流れで「大きな古時計」にはいっていった。
続いて故赤塚不二夫が大好きだったというチャップリンの映画からライムライトの「テリーのテーマ(エタナリー)」とモダンタイムスから「ティティナ」。チャップリンの軽やかではあるが湿ったメロデイが耳に心地よい。
最後は「バラード」に続いて恒例の「ボレロ」。「ボレロ」は毎年微妙に違うが、今年は大きく違っていた。曲に含む情念を抽出して増幅したような曲に仕上がっていた。全体のバランスも今まで聴いた「ボレロ」で一番まとまっていたようだった。山下の心境の変化だろう。テクニックはますます進歩しているように感じた。
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