盛りだくさんの落語会だった。 以前から気になっていた噺家、柳家小せん。メジャーな人ではないので小さい落語会を探さないとなかなか聴くことができない。寄席には出ているだろうが、15分程度の噺しか聴けないだろう。 今回はちょうど良い機会だった。 前座でお目当ての小せんが出てきたのには驚いた。開口一番だから当然軽い噺である。 二番手の瀧川鯉八は初めて聴く噺家である。若い割には落ち着いていて不気味な雰囲気の人だ。噺の内容も日常生活から少し外れたブラックな世界。奇妙な味の落語であった。 恩田えりはお囃子の人で普段は奥で三味線を弾いている。今日の落語会のテーマ"フワフワ系"にいちばん近い人。話し方がフワフワして癒し系だ。 履歴を検索すると"日本大学法学部卒業。会社員経験後、国立劇場伝統芸能伝承者養成機関・寄席囃子コースにて学び(第11期卒)、現在は落語協会所属の寄席囃子奏者として活動中。"とあった。芸一筋という感じではなく、脇からスッと入ってきていつのまにか本流にいる、みたいな自然体の人だ。そういえば小せんも明治学院大学国際学部国際学科を卒業してすぐ鈴々舎馬桜門下に就職している。 2回目に登場の柳家小せんは古典落語の"お神酒徳利"をたっぷりやってくれた。45分間古典落語の世界に浸りきることができた。しかも肝のところで恩田えりの三味線の伴奏が入るという豪華版だ。 中入り後座布団が2枚出て何をやるんだろうと思ったら私服の恩田えりとギターを抱えた柳家小せんが出てきた。小せんは3回目の登場だ。小せんのプロ並みのギターに合わせて恩田えりが音曲の発声法で歌うのは灰田勝彦の"野球小僧"と題名は知らないが野球の歌一曲。 トリは柳家わさび。あっけにとられて「今日は小せん師匠のディナーショーか?」と言ったが、しばらくはペースに乗れないでいるようだった。 気を取り直してやったのは"蝉"と"ベートーベン"と"第九"をテーマにした三題噺。第九のコーラスのメンバーにアブラゼミが発声法を指南するという噺。宮沢賢治の"セロ引きのゴーシュ"を思わせる話だ。ここではアブラゼミが師匠になる。アブラ先生だ。わさびの独特の思い込みの"演技"で徐々にアブラ先生が現実味を帯びてくる。初めは少しこじつけかなと思いながら聴いていたが、終わってみるとひとつの立派な噺になっていた。芸の力と思い込みの強さがものを言ったのだろう。
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