先ずは前座。前座を聴くのはレストランでワインを飲み残してソムリエの舌を鍛え、それがいずれ自分に還元されるのを期待するという意味合いがある。
聴かなければならない。将来彼が名人になって我々に還元してくれるのを期待して。 それにしても「やーぶらこうじ、やぶこうじ」ではなく、「やーぶらこうじ、ぶらこうじ」ではないのか。
お待ちかね一之輔の一席目は「浮世床」。ただでさえ面白い噺が一之輔のアドリブを交えた演技に抱腹絶倒した。本を読むだけのシーンなのになんでこうも笑えるのか。人間観察の鋭さと内面をも表現する演技力によるものか。
続いては「夢八」。かなりブラックなシチュエーションにもかかわらずおかしい。もともと葬式とか人の生き死にに関係する事柄にはおかしな部分が含まれているものだが一之輔は見事にそのおかしい部分を引き出してさらにデフォルメして増幅している。「浮世床」にも増して抱腹絶倒する。
仲入り後は撒き餌第二弾、金原亭馬久の「近日息子」。親父が風邪をひいた程度で葬式まで手はずを整えてしまうという与太郎息子の噺。やりようによっては抱腹絶倒ものの噺だが、やりようによってはこんなにつまらなくなるもんかな? という噺だった。少しは人間観察をしてみたら? って言ったら怒るだろうなー。
トリは一之輔で「初天神」。新年早々ということで滑稽噺を三題並べた。 人間観察とオーバーアクション。一之輔ワールドだ。
「初天神」は子供の演技が難しい噺でたいていの落語家はこまっしゃくれた変な子供にしてしまう。小三治でさえ大人が想像した子供になってしまい聴いていて尻がムズムズした。 一之輔はかなり進んだ現代っ子にした。ヤクザっぽい子供なんだけど凧が揚がった瞬間、今までバカにしていた父親を尊敬するというありそうな演出をして成功した。 人間観察と演技力、オーバー気味のデフォルメ。一之輔の真骨頂だ。
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