巣鴨駅を出て師走の地蔵通りをとげぬき地蔵に向かって歩いた。この通りは師走とかに関係なく人が大勢歩いている。シャッター商店街という言葉もここに限っては縁がない。どの店も元気よく営業している。洋品店からレストランから甘味屋さん、喫茶店、生活に必要なあらゆるものがここで手に入る。
商店街が切れるあたりに今日の目的地スタジオフォーがある。ここはジャズのライブ演奏と落語をやるスタジオだ。落語は主に二つ目主体でやっている。巣ごもり寄席のパンフレットには「巣立ちのときをまっている若手芸人の会です」と書いてある。
50余りの客席は30分前にはほとんど埋まってしまった。熱心なファンが多いらしい。今日のトリは今飛ぶ鳥を落とす勢いの神田松之丞だからかもしれない。始まりは入船亭小辰の「悋気の独楽」である。初めて見たが独特の雰囲気を持った落語家である。主人公のヤキモチを焼く奥さんが不気味で怖い。滑稽ものよりお化けの話が得意な人ではないか。
次は吉笑の「くじ悲喜」。歳末のくじ引きの風景から突然くじを引かれる立場のくじたちの話に切り替わる。筒井康隆のSF小説のような展開だ。残り少なくなったくじたちがいろいろなことを言うのがおかしい。
仲入り後は上方落語の桂福丸の「河豚鍋」。上方落語だろう、初めて聴く噺だ。フグの調理法がはっきり決まっていない時代、こわごわとフグ鍋をつつく旦那がおかしい。
トリは松之丞の「淀五郎」。やはり師走は義士ものである。直接の義士ではなく歌舞伎の芸談ものという方が当たっているかもしれない。松之丞はいつでも全力疾走だ。迫力のある読みは今日も健在である。
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