【Tの感想】
本のしおりのような凝ったデザインのチケットを握り締め、会場へと吸い込まれていく老若男女。立川流のファン層はまさに老若男女である。バランスよくいる印象。開演前流れていた音楽はおそらく吉笑さんが好きなBGM。カフェで流れていそうなおしゃれなやつ。
開演5分前、いつもの諸注意等のアナウンス、と思いきや、ずいぶんいい声である。こはるさんだった。
「受付にいる吉笑くん!そろそろ楽屋に戻ってきてください?」
こはるさんのまくらのようなアナウンスで会場の客も和んだ。寄席の雰囲気とも少し違う、独特の緊張感が客席にもあったのだ。今夜新時代が始まる、それを我々は目撃するのだ、というような空気が確かに感じられた。
注目の一人目は、こはるさん「真田小僧」。出てくるなり大拍手。200人以上いるとやはり拍手の迫力がすごい。こはるさんもうれしそうであった。小生意気な子どもが本当に面白い。たまに見せる大人を真似したような言動は実にリアル。こういう子いるいる。こはるさんがやる少年は本当に少年で、声も素敵で惚れ惚れしてしまった。アニメ昭和元禄落語心中でもご活躍されておられる彼女は才能の塊。
次に颯爽と現れたのは志の太郎さん「人間っていいな」。新作で攻めてきた。 師匠が人口知能を持ったロボットだったらという噺。途中wifiあるある、アナログテレビあるある、説明書大体使えないあるあるが出てきて面白い。どの世代も共感できる内容。人間でよかった。
中入り前は、談吉さん「天災」。前のロボット噺から急に舞台は江戸にタイムスリップ。脳ミソが鍛えられる。流れるリズム感がたまらなく気持ちが良かった。表情豊かに様々な人物を演じ分ける。両極端な性格の二人のやり取りが面白い。やっぱり古典も好きだ。
中入り後は、吉笑さん「一人相撲」。今年の夏に吉笑ゼミで作られた噺。実況×落語。夏に聴いた時より登場人物や場面描写が細かく作り込まれていた。言葉選びも面白い。まさに擬古典。来年もどんな噺を生み出してくれるのか楽しみ。
ここまでで会場は大変な盛り上がり。だが少し疲れてきた。そこに涼しい顔で登場した、寸志さん「庭蟹」。番頭さんが旦那さんに頼まれてシャレを言う、というシンプルな噺。まくらでは「立川流が好きっ!!の小さい"っ"、これ言うの恥ずかしいよね?笑。でもみなさん、立川流好きですかー?」客拍手で答える。「私の方はヒザですし、みなさんもお疲れだと思うので、軽くさっと終わりますね?」と言って噺に入る。このジェントルマン対応にぐっとこない女子はいないだろう。
軽くやると言いながら、めちゃくちゃ笑わされた。思わず手を叩いて笑う客。
寸志さん、かっこよかったです。
トリは、志ら乃師匠「粗忽長屋」。これもまためちゃくちゃ笑った。軽快な江戸っ子の掛け合いが心地いい。「全員が否定してもオレはオレだ!」という魂の叫びが響き渡り噺の途中であったが客は大拍手。前に個性爆発の5人がいたのに、トリで一気に自分の空気にしてしまう。さすが師匠。
最後は全員出てきて撮影会。
吉笑さんがすかさず「ツイッターで拡散してね!」。さすが抜かりない。
大興奮の中終演。頭をフルに使い倒した2時間。この人達のスピードに振り落とされないように、自分も仕事や勉強を頑張り、この先何十年も聴いていきたい。
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