ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」はいつ聴いてもきらびやかで華やかな音楽だ。今日のコンサートの幕開けにふさわしい曲である。15分間の演奏の後15分間の休憩…、早い。
今日のメインはマーラーの「交響曲第5番嬰ハ短調」。80分に及ぶ長い曲だ。第四楽章の「アダージェット」はビスコンティ監督の映画「ベニスに死す」でテーマに使われた有名な曲だ。
第一楽章の冒頭は長いトランペットソロ。今日の演奏会がうまくいくかどうかの試金石だ。少しの破城もなく見事に演奏した。これで学生か? 心配することはなかった。そのあとの楽章で演奏するホルン、トロンボーン、フルート、クラリネット、みんな見事な出来だった。音量も海外のオーケストラに負けないほど出ていた。 お目当ての第四楽章「アダージェット」。見事な演奏の中でこれだけは褒められなかった。ベルベットのような柔らかみが出ていないのだ。低いところは低いだけ。高いところは高いだけ。マーラー独特の艶が出ていない。よせては返し、返してはよせ。だんだん高まる官能の渦が表現されていない。さすがにここは学生では無理か。 第五楽章のフィナーレまでたくましい演奏は少しのほころびもなく続いた。見事な演奏だった。指揮者の秋山和慶が一人一人を指名して立たせる。その度に一段と強くなる拍手はなかなか鳴り止まない。
日本のオーケストラの底辺は広い。そしてその質は徐々に上がってくる。楽しみである。
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