前座の時には閉じられていた奥舞台が松之丞が登場する時には開いていた。奥行きが出て広い舞台の真ん中に松之丞が背中を丸くしながら出てきた。
「吉原百人斬り」は陰惨な話だ。醜い顔をした男が花魁の手管に乗って騙された挙句、花魁を含め遊郭にいる者たちを皆殺しにする。ひどい話だ。
「お紺殺し」は醜い顔をした男がどのようにして生まれたかという因果話だ。男の父親が若い頃の話。父親がふとしたことから10年前に捨てた女房「お紺」に出会い、恨みつらみを投げつけられ思い余って殺してしまう。さらに陰惨な話である。お紺には何んの悪いところもないのだ。なんなんだろう、この話は。 お紺が死に、殺した男もお紺の幽霊にとり殺され、お紺が死んだ河原に雪がしんしんと降り積もる。その雪のシーンがやたら美しい。日本の美というのはこれじゃないかと思われた。 そういえば忠臣蔵の討ち入りのシーンも雪がしんしんと降る中で整然と行われる。
休憩後は忠臣蔵外伝「神崎の詫び証文」だ。赤穂から江戸へ急ぐ神崎与五郎が浜松の茶店で馬子に因縁をつけられる。剣の使い手神崎は馬子を懲らしめようと思えばたやすいのだが大石内蔵助から大事な使命をあづかっているのでそれができない。平謝りに謝り、詫び証文まで書かされてしまう。
神崎が吉良邸へ討ち入り、切腹の後、ふとしたことからそのことを知った馬子は…。
ここでもまた美しい雪のシーンが出てくる。 今日のテーマ「冬は義士、夏はお化けで飯を食い」というのは講釈師のことだが、この二つのテーマが日本人のDNAに深く結びついているのを感じた。
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