金曜日の夜の吉祥寺駅前は人でいっぱいだった。両側に飲食店が建ち並ぶ狭い道をバスが通る。今日の会場武蔵野公会堂は駅からわずか2分の場所にあった。武蔵野市の古い建物で中に入ると駅前の騒がしさとはうって変わって落ち着いた雰囲気だった。
一番手は前座の笑ん。「牛ほめ」というのは典型的な前座噺である。与太郎が大家さんの言われた通りに褒めようとするがなかなかうまくいかないという噺だ。笑んは前座らしくたどたどしく噺を進める。くすぐりらしきことも言うが全然おもしろくない。名人がいうとちょっとしたことでもすごくおかしいのにこの違いはなんだろう。
二番手は二つ目の笑二。噺は「不動坊」。上方落語の大作である。金貸しの利吉が大家さんに呼ばれ、落語家不動坊火焔が急死したのでその女房お滝さんをもらわないかという相談を受ける。前々からお滝さんに惚れていた利吉は二つ返事で受ける。という前半と利吉をからかってやろうという悪友たちの悪ふざけの後半からなっている。笑二は破綻することなくこの長い噺を乗り切った。
仲入り後は吉笑の「歩馬灯」。人は死ぬ直前に今までの人生を走馬灯のように振り返る、という言い伝えを元に作った新作落語である。走馬灯のようにサーっと通り過ぎてくれたらいいのだが、歩くようにゆっくりと人生を振り返ったらどうだろう。忘れてしまいたい嫌なこともゆっくり振り返ったらどんな感じがするのだろう。ひと思いにあっさりと殺してくれた方がいい。吉笑はこうなったらどうなるのだろうという疑問を落語にするのが得意だ。
最後は師匠の談笑。演目は三遊亭圓朝作の「死神」。古典落語ではあるが圓朝がグリム童話から考案した噺である。圓朝の時代には新作落語といわれていたのだろう。談笑は独特のくすぐりを交えてこの古典を新作っぽく話した。
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