東屋孝太郎の新作「父と子と、大石主税物語」から始まった。関東で唯一の浪曲常設館木馬亭である。今日は平日木曜日の夜というのに131席満席、通路に補助席が出ていた。客層も若く、浪曲って結構人気があったんだ、と再認識した。
東屋孝太郎のまくらから本題の浪曲を唸りだした途端驚いた。PAの音が大き過ぎる。苦痛を感じるほど大きい。こんな狭い小屋ではPAなどいらないくらいなのに。残念ながらったら孝太郎の話どころではなかった。
次は今日の公演のプロデューサー玉川奈々福が呼んだ特別ゲスト、中川敬の公演だ。浪曲の小屋でロックの歌手が出るのは珍しいのではないか。PAがそのままでは嫌だな、と思っていたらそのままのセッティングで始まった。ギターの音が異常に大きい。マイクに口をつけるようにして歌うから歌詞もはっきり聞こえてこない。コンサート会場ではないのだからもっと自然な音響で聴きたかった。残念ながら歌を楽しむどころではなく、苦痛をこらえるのに必死だった。
休憩後今日のお目当て玉川奈々福の「椿太夫の恋」。原作はデュマ・フィスの「椿姫」だ。まくらのあと細かいセリフのやり取りから満を辞して唸りだした。実に爽やかな唸りだった。前半の異常なPAはどうしたんだろう、と思えるほどだ。救いのない悲恋を切々と読みそして唸る。会場の空気はあっという間に奈々福の世界だ。浪曲というよりオペラを思わせる構成だ。奈々福苦心の演出だろう。
今日の客はこれを見に来たんだな、と思った。
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