日本橋社会教育会館は日本橋小学校と一緒の建物に入っている。ロビーから外を見るとコンクリートの校庭がある。いかにも都内の小学校だ。ホールは階段教室みたいになっていて普段は授業で使っているのではないかと思う。なんとなく洒落た風情だ。
幕が上がると全員勢揃いだ。一番年下と思われる吉笑が司会だ。まずは全員による雑談。全員30代なかばで芸歴も10年前後だ。今勢いのある人たちだ。
はじめは吉笑の落語で自作の「くじ悲喜」。くじ引きの箱の中の話だ。くじたちが箱の中で何ごとか話しあっているというシチュエーションで思わず引き込まれてしまう。くじたちが俺は当たりだとか俺はどうせティッシュだとか言っているのがおかしい。
次は浪曲だ。浪曲は自分も含めて生を聞くのは初めてという客が多かったと思う。どういう風に取り付いたらいいんだろう、という客の胸の内を知り尽くしたように太福は優しく導いてくれる。演目は「自転車水滸伝---ペダルとサドル」。荒川区のアパートの大家さんが主人公だ。そこに住む太福が大家さんからもらった自転車で浪曲小屋に通うという日常の話を浪曲の節に乗せて語るのだがこれがおかしかった。語る内容のおかしさとそれに合わせる三味線の調子の良さ。
見事なコラボレーションになっていた。声の調子と乾いた三味線の音がこちらの胸の奥の変なところに潜り込んできてその辺をかき鳴らすのだ。なんだろう。こうやって昔から日本人の胸の奥をかき鳴らしてきたんじゃないだろうか。太福がいい調子でちょうど時間になりましたと唸った時、全員の客が体で「えー、もう終わりー?」というのを感じた。
中休みなしで漫才、ヤーレンズ。初めて見る漫才だ。これは調子が悪い。全然リズムがない。漫才は二人の会話のコラボレーションによるリズムが命だ。それがなければ聞いているのが苦痛になる。この20分間は苦痛だった。
トリは神田松之丞。今日のお目当てだった。だった、というのは浪曲の太福とみね子の三味線に圧倒されてしまい、話の中に入りこめなかったからだ。熱演すればするほど空回りする。そのような感じになってしまった。三遊亭円朝の「真景累ヶ淵」から「宗悦殺し」、ゾッとする話で夏向きなのだがこのままで終わるのは後味が悪い話でもある。
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